〈民衆の声〉 MBC「記者手帳」 国情院の工作員が暴露した「白い部屋」事件、そして尹美香
毎週ソウルの水曜デモの現場に現れ、大音量で被害者を貶め、支援者を罵倒し、少女像撤去を要求するプラカードや日章旗を振りかざす極右勢力、国会では前正義連代表の尹美香議員に対してありもしない罪をもって議員除名処分に追いやろうとしています。
30年間被害者と共に日本をはじめ国際社会に「慰安婦」問題の解決を訴え、日本の責任を問い続けた尹美香議員バッシングの背景に一体何があったのでしょうか。
昨年6月と8月MBC放送ドキュメンタリー番組『PD手帳』で驚愕の事実が明かされました。
元国家情報院職員であり、海外工作官だった人物の証言によって国家情報院が日本軍「慰安婦」問題の隠蔽やバッシングに関わっていた事実が明かされました。
国家情報院から拷問調査を受けたうえに、免職処分となった元工作官が国情院を訴えた裁判が現在進行中です。
以下は公判の記録と国情院の闇に迫った番組での証言をさらに追った報道です。
これまで「慰安婦」問題解決のために日韓市民は連帯してきましたが、今や日韓の極右、親日勢力が手を結び、背後には国家権力の存在も指摘されています。日本の市民としてもこうした事実を明らかにし、連帯した力でうち破ることが求められているでしょう(全国行動)。
※参考:韓国MBC放送PD手帳「不当取引-国情院と日本の右翼」 (2021.8.10放送)
https://www.restoringhonor1000.info/2021/08/mbc2021810pd.html
MBC「記者手帳」 国情院の工作員が暴露した「白い部屋」事件、そして尹美香
チエ・ジヒョン記者 2022.2.15
MBC 記者手帳で国家情報院が日本の極右勢力を利用して日本軍「慰安婦」運動を妨害する姿を再現した場面。ⓒPD手帳キャプチャ
「(PD手帳では白い部屋を)あまりにも大きく作っていた。実際にはあれよりももっと狭かった」
MBCの調査報道番組「PD手帳」の「国情院と白い部屋-工作官たちの告白」編で情報提供者として登場した元国家情報院海外工作官Hさんの証言である。Hさんは国家情報院長に対し職権免職処分取消訴訟を起こし、現在、ソウル高裁で控訴審判決(3月23日)を控えている。Hさんは1月19日の弁論で白い部屋について証言した。
Hさんは李明博-朴槿恵政府の時に日本で活動していた国情院の海外工作官である。国情院で25年間働きながら表彰状までもらった人物だ。そんな人物が2015年1月28日から30日まで3日間、国情院庁舎内にあるいわゆる「白い部屋」に一日中閉じ込められて「拷問」に準じる非正常な監査を受けたと番組の中で暴露し、社会に波紋を起こした。
彼は監査を受けた後、職権免職処分を受けて職場を去ることになった。彼が起こした訴訟は、この職権免職処分の取消を求めるものだ。訴訟の核心的な争点は、彼が受けた監査が正当か否かということだ。
「監査ではなく、拷問だった」
国情院はHさんが日本で活動した後で作成した経費証明書類と実際の支出が一致していなかったため監査をしたと主張している。当時の国情院の監査責任者で監査室長だったDさん(退職)は昨年11月18日、証人尋問に臨んで「Hさんがスターバックスで一定期間に予算を不正に使用した回数があまりにも多いという監査官からの申し立てがあった」とし、「1,2件ならばミスということもありうるが1年間に(使用可能限度を超えたのが)30回にもなるというのは非常に意図的なものだ」と主張した。ただし、その額は大きくなかったという。
しかしHさんは「これは会計監査ではなく、2015年度下半期の海外拠点監査だと監査官は言ったし、私の上司もそう言った。1年に1度おこなう総合監査だった」とし、「ところが国情院の監査規定ではありえないことが起きた。普通の監査とは距離の遠いものだった」と反論した。
Hさんは自身の容疑を全面的に否認し、国情院が自身を懲戒するために虚偽をでっち上げたと主張した。
「(監査官が)私が言うとおりに書かなければ『監査拒否』で処理すると言った。そして『私はコーヒーマニアなので歴史運動団体の○○○さんに会ってコーヒー専門店でコーヒーを飲んだ後、その(使用可能限度)額よりも多額の現物を詐取した』と書けと強要した。私が、どんでもない、そんなことは書けないと主張すると、さまざまな脅迫と罵声を浴びせた」
Hさんは、自分は「コーヒーマニア」でもないし、詐取したこともないと言い、領収書をよく見せてくれと要求したが、監査官がきちんと見せてくれなかったと主張した。
当時Hさんは狭い部屋に閉じ込められてびくともできない状態だった。身体的にも、心理的にも圧迫されていたのである。番組を通して社会問題となったあの「白い部屋」で。
国情院は「机2台と椅子は一般的な商品で、身体に抑圧を与えることはない」と主張している。「PD手帳」が再現した「白い部屋」の様子を見た監査責任者Dさんは、法廷で「まったく事実ではない。荒唐無稽だ」と述べた。Dさんは「そこは密室ではなく一般的な場所だ。そこには窓もあって、まったく問題はない」とし、「白でも、赤でも、黒でもなかった」と付け加えた。彼は「空間は広くはない」としながらも「狭いというのは相対的なものではないか」と聞き返した。
これに対し裁判官が「縦横2メートル程度の大きさか」と具体的に質問、Dさんは「その程度だ」と返答した。裁判官が「であれば机と椅子を置いたらいっぱいだと思う」と言うと、Dさんは「そうだ、その程度と考えてもらえればいい」と答えた。実際の空間が非常に狭いことを認めた形だ。裁判官も「狭い部屋のようだ」と言った。
白い部屋に閉じ込められた当事者であるHさんは、身体に強力な圧迫を受けたと言い、国情院の主張を一蹴した。
「私がいた白い部屋は会議室の中に電話ボックスのようにつくられた場所だった。私の後ろだけが壁だった。中に入ると小学生が使う机2台がくっついていて、空間が非常に狭く、机が椅子の肘掛けに乗っかっているような状態だった。片方ずつ足を入れ込むようにしてやっと座ったが、腹が机に押さえられる格好になった。左右に動くことができない状態
そんなふうに事実上の「監禁」状態にあったHさんは結局、その状況から抜け出すために監査官の要求をある程度聞き入れることにしたという。
「結局(文句を)調整して、『私は誰々に会ってコーヒータイムを持ったが、違法なことはしていない』と書くことにした。ところが『詐取』という文言を必ずいれなければ監査が終わらないと言うので『現物で詐取したことはない』と書き直した。すると今度は保安覚書を書かなければ終わらないと前言を翻した。そこにずっといたら死にそうだったので、監査の過程であったことを第3者である職員を含め誰かに漏らしたら厳重処罰を受ける、と書いた。28日に一晩で3通以上の書類作成をした」
そんなふうに「異常な監査」が終わったと思ったが、Hさんは翌日も、その翌日も、「白い部屋」に呼ばれて監査をまた受けなければならなかった。3日間ずっと「白い部屋」に閉じ込められていたのである。
二日目には「1年間、誰に、いつ、どこで会って何を食べたか時間逆順で書いて、それをまた今度は時系列で書け」といった無理な要求も受けたという。領収書と対照して違うことが出て来ると「横領」と見なして懲戒するという意味だ。
国情院はHさんが面談開始後すぐに頭痛を訴えて面談を拒否したので面談はすぐに中止されたと主張したが、情報提供者は「監査を拒否したことはない」と一蹴した。「監査拒否」は懲戒事由であるため監査を拒否することはできなかったということだ。むしろ「監査拒否と見なす」という脅迫を受けたとHさんは主張した。
「これまでの人生ではじめての症状が身体にたくさん出たので、それを訴えたが、監査を中断せずに脅迫し続けた。『監査を拒否したらおまえは重い懲戒を受ける』と言って、私が休憩を求めたり、国情院の中にある診療室で診療を受けさせてほしいと要求したりしても、全部拒否された」
その後Hさんは異常な症状があって病院に行ったが、自殺衝動などの懸念があって直ちに入院させなければならないと言われ入院した。乖離障害の診断を受けたのだ。
「あのときに(白い部屋で)受けたのと似たような心理的刺激を受けると意識が途切れたり動作が止まってしまう。主にエレベーターの扉が閉まる時に、意識も、身体も固まる。公共交通を再び利用できるようになるまで3年かかった。何に乗って行っても意識が途中途中で切れて戻って来られなくなるからだ。夜中に道峰山(トボンサン)のてっぺんで意識が戻ったこともあった。私がなぜそこにいるのかも分からなくて……。その前には、そんなことはまったくなかった。診断書を見たら、狭い空間にいたことが原因だろうと書いてあった」
Hさんは「白い部屋」で自分が受けた監査は「拷問」に等しかったと語った。彼は「あそこにいると何も考えられなくなる。ここから出たい。どうやったら出られるんだろう。そんなことばかり考えていた」と涙声で語った。
Hさんが職権免職処分を受けたのは「休職期間満了なのに復職しなかった」という理由からだった。しかし、Hさんは「復職しなければ職権免職になることを知らなかったのか」という国情院側弁護人の質問に「(休職ではなく)病気休暇処理をして欲しいと言ったが、国情院が回答してくれなかった」と言い、「(むしろ私に)自分から辞めろと言った。『出勤するか、辞職するかしろ。そうしなければおまえはクビだ。公務員年金をすぐにもらえるようにしてやるから辞職しろ』と繰り返し要求してきた。私は回復したら復帰できると言った」と返答した。
Hさんは白い部屋にいたことを国情院の観察室に申告したが、帰ってきた答えは職権免職だったという。
これについてDさんは証人尋問で「私が課長をよんで(Hさんが)精神病院に入院したらしいから調査はやめようと言った」とし、「家庭が壊れるかもしれないと思い、人として配慮して(調査)はやめようと言って不問にした」と述べた。彼は「国情院長に報告したか」というHさん側弁護人の質問に「口頭での報告だったので報告書はない」と述べた。政権交代と共に退職したDさんは、後からHさんが職権免職になったということを聞いたと言い、責任を回避した。
国情院の国内政治への介入と歴史歪曲を告発して侮辱された海外工作員
では「おかしな監査」は一体どうして始まったのだろうか。これがすべて事実だとしたら、なぜ国情院はHさんに難癖をつけて追い出すことに血道を上げたのだろうか。これが、この事件の最も重要な点だ。Hさんは当時、国情院の監査責任者だったDさんとの関係をその出発点として上げた。
「Dさんは海外工作を政治ゲームに引き込んだ人だ。2014年、新たに赴任した李丙琪(イ・ビョンギ)国情院長に私が報告したことがあり、(元世勲前国情院長のときに)国情院の海外工作を政治に引き込んだことを批判したことから、Dさんと対立関係が生じた。Dさんが来て『組織の秩序を乱すのを黙って見過ごすわけにはいかない』と私を脅迫した。そこで私が『そういうことがあるなら私が観察調査を受ける。観察に回してくれ』と言うと、苦々しい顔をして出て行った。その後、監察官室に出頭するよう指示を受けた」
MBC PD手帳で国家情報院が日本の極右勢力を利用して日本軍「慰安婦」運動を妨害する姿を再現した場面。ⓒPD手帳キャプチャ
写真上字幕「私が大阪勤務に行く前のことでした。『あの女が行くところに下着まで脱がせろと言え』」
写真下字幕「その方が尹美香さんだったそうです」
Hさんが李丙琪(イ・ビョンギ)国情院長に報告した問題は「PD手帳」で詳しく扱われている。昨年6月に放送された「国情院と白い部屋-工作官たちの告白」と8月に放送された「不当取引、国情院と日本の極右」だ。両番組に情報提供者として出演したHさんは以下のように述べた。
「李丙琪国情院長に報告する機会を得て、大勢の職員が見ている前で口頭で報告した。2つのことを話した。一つは、元世勲(ウォン・セフン)院長時代に不適切に政治に関与して、われわれ海外情報領域を国内政治に動員する過ちをおかした人々に関する問題を指摘した。もう一つは、日韓関係のために何をすべきかに関する話をした。日韓関係の根本問題は歴史的事実を日本側が認識できないことにある」
前者は2012年の大統領選を控えて海外ではじめて実施された在外国民投票に「従北左派勢力」が参加できないように、国情院が旅券発給を妨害した事実を指摘したもので、後者は国情院が日本の極右勢力を支援して日本軍「慰安婦」被害者の活動を妨害する一方で、屈辱の日韓「慰安婦」合意まで推進したことをさしている。それこそ国家を根こそぎ揺さぶる問題だ。これらのことが事実だとしたら、情報提供者Hさんは国情院の過ちを内部で告発したために酷い目に遭ったということになる。
Hさんは法廷で「私は祖国のために闘ったのに、祖国に罪人扱いされたということが……、私が闘うべき対象だった北朝鮮や日本の極右に(こういうことを)されたとしたならば、こんな思いはしなかったはずだ」と述べ、しばらく泣き続けた。
Hさんは番組の中で「『慰安婦』被害者の辛さや悲しみ、苦痛に対して、その時代を経験していない者が勝手に合意という名の下に免罪符を与えることはできないと思う。(ところが免罪符を与えてしまった)国と組織に対し後で誰かが振り返って『はたしてあれは正しいことだったのか』と問うたとき、私は『抵抗した人々がいた』と一行残したかった」と語った。そんなHさんの「抵抗」は意味ある結果につながるのだろうか。
2017年の第19代大統領選挙で文在寅政権への政権交代が実現して、国情院の国内政治への介入は法的に禁止され、日韓「慰安婦」合意は被害者が受け入れられなかったという理由で事実上無力化された。いずれにせよ良い結果だった。
しかしもう1カ月も残っていない第20代大統領選挙を控えて暗雲が再び影を落としているような気がしてならない。日本軍「慰安婦」被害者たちと共に長い歳月運動してきた尹美香議員が国会から除名される危機に瀕しているからだ。
2020年4月の総選挙直後、当時国民の力党の郭尚道議員(クァク・サンド、大庄洞(テジャンドン)ゲート一味から50億ウォンを受け取った容疑で現在は国民の力党を離党)を先頭に立てた野党と保守メディアの無差別な攻撃によって尹議員は日本軍「慰安婦」運動に対する後援金と支援金を横領した「魔女」とされ、第20代大統領選挙を控えて世論が不利になっている与党はそんな尹議員をこれ見よとばかりに率先して国会から除名しようとしている。尹議員が無実を訴えており、彼女に対する裁判所の判断が出てもいない状態なのに、である。これは、尹議員個人を超えて、韓国挺身隊問題対策協議会と正義記憶連帯の正当性に傷をつけている。
尹議員はHさんが暴露した国情院の日本極右勢力支援によって被害を受けた当事者でもある。国内外の日本軍「慰安婦」被害者支援団体が「尹議員除名は日本の極右勢力だけ喜ばせること」だとして国会除名推進に反発している理由だ。もしかしたらHさんも、これを見ながら同じことを考えているかもしれない。
[기자수첩] 국정원 공작원이 폭로한 ‘하얀방’ 사건, 그리고 윤미향
- 지현 기자 cjh@vop.co.kr
- 발행 2022-02-15 14:50:47
- 수정 2022-02-15 17:14:42