韓国政府の「強制動員問題解決案」なるものが112日に発表された。提案文も討論文もなく、当事者たちの発言時間もない珍しい討論会だった。被害者と代理人団を集めて名分づくりの演劇で、政府と彼らが好む専門家という者たちが、発題と討論に各自の役割を分けて読み上げた。

 


 韓日関係改善の重要性、この間の状況、併存的・重畳(ちょうじょう)的債務引受の意味、賠償対象と財源確保案、今後の方向など、長々として複雑に思える文章とかなり悩んだような美辞麗句の裏に隠された意味は単純だった。

 



 それは、韓国政府が韓国企業にタカって強制動員被害者支援財団を通して大法院確定判決を受けた被害者たちに金銭的補償を実施する。日本政府の謝罪と日本戦犯企業の賠償はない。これで韓半島合法支配の主張、強制動員の否定、1965年韓日請求権協定で法的責任は終結したという日本政府の強弁をすべて認定する。

 



 日本政府の誠実な歓迎・期待発言はすべて欺瞞だ。最大限大目に見ても虚しい妄想だ。これまでの談話を確認する程度の日本政府の後続処置うんぬんも内実のない抜け殻だ。追って被害者たちの意見を十分に聞くという宣言も装飾でしかない。すべてを捧げるからどうか振り向いて欲しいという哀願、日本政府に向けた一方的な愛情告白だ。この他はすべて恥ずかしく、デタラメで、呆れる内容を隠すための偽装策に他ならない。

 



 これで尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権は大韓民国の憲政秩序を揺るがし、司法主権を崩壊させて被害者の切迫した訴えを徹底的に無視して、日本政府のウソをすべて正義に、この間の韓国市民と政府の主張をすべて不正義に覆してしまった。日本政府の期待に完璧に呼応し、戦争犯罪の加害者に免罪符を与えた。国益と国民的自尊心を紙キレのように投げ捨てた。

 



 被害生存者で訴訟当事者の梁錦徳(ヤン・クムドク)ハルモニは、「私が望むのは日本の謝罪」だと強調し、「明日死んでも韓国から出るお金は受け取らない」と憤りを吐露した。被害者支援団体は、「反人道的不法行為に対する断罪と歴史清算ではなく、その反対に数十年間の困難な戦いの末に勝ち取った強制動員被害者の名誉と権利を逆清算する売国的・亡国的解決方法」だと強く批判した。全国の市民団体も記者会見と各種討論会、立場表明などを通じて韓国政府案を強力に糾弾した。

 



 尹錫悦政権の強制動員解決案はすでに失敗した。凄惨な状況の中を生き延びて、孤独な長期間の闘争で強靭さを積み重ねてきた被害者たちを無知だと卑下して、若干の恩恵の対象、あるいは無視できる存在という扱いをした。世界最高水準の民主主義・人権意識を持った大韓民国の市民を見下して、たやすく乗り切れると考えたのだろう。恥ずかしくなるほどに浅薄で貧弱な台本の演技者たちの魂のないダイコン演技も一役買った。だから討論会聴衆たちの強い抗議にぶつかって思い通りに収拾できなかった。薄っぺらな知識、インチキな歴史認識、人間愛の欠如、民族性の不在が何よりも最も大きな失敗原因だ。

 



 尹錫悦政権が金科玉条のように掲げる法治と自由の正体が露呈した。それは、自らが犯した反憲法的、違憲的、脱法的な行為を言い逃れする自由、思いのまま気の向くままに言い立てて法律の物差しを思い通りに使い分ける自由、加害国と加害企業に免罪符を与える自由、再び武装して戦争できる日本の自由を保障する自由だ。

 



 私たちは被害者の尊厳と名誉を踏みにじる韓国政府の拙速で屈辱的な強制動員問題解決案を強く糾弾する。被害者と加害者の立場を覆して主権国家・大韓民国の自尊心を破壊し、歴史を戦犯国家と取引しようとする尹錫悦政権を強力に糾弾する。

旧韓末時代、私利に眼が眩んで祖国を売り払った親日派たちのように後世に末永く記憶されないために、売国的な強制動員問題解決案を直ちに撤回せよ。万一、「2015韓日合意」の後禍と国民的な反発を忘却したままこの亡国的な解決案を押し付けるなら、大韓民国の良心的市民たちは全力を尽くして尹錫悦政権に対抗するだろう。

加害者の心からの謝罪と法的賠償を受ける時まで、被害者の尊厳と名誉が本当に回復するその日まで私たちは被害者と共に闘うだろう。

 



 2023118

 正義記憶連帯理事長 李娜榮(イ・ナヨン)



(訳 権龍夫)

 

 

*訳注)重畳的債務引受(併存的債務引受);債務引受者が当初債務者と連帯して債務を負担する。この債務引受者が破産や倒産した場合、当初債務者が債務を支払う。