2021年10月21日、米ハリウッドを代表する映画賞である映画芸術科学アカデミー、別名オスカー賞の大学生映画祭で48
回目となる授賞式がオンラインで開催されました。

今回金賞に選ばれたのは第二次世界大戦当時の日本軍「慰安婦」をテーマにした作品で、アニメーション部門最高賞を受賞した金スジン作家です。



以下は韓国の「ニュース風景」の記事を抄訳したものです。



学生アカデミー賞は、人材発掘を目的に1972年に設立、アメリカと海外地域に分けてアニメーション、ドキュメンタリー、現実、実験映画部門別に金、銀、銅賞がそれぞれ選定されます。


アカデミーによると、今年アメリカの210の大学と126の海外の大学から出品された1400の作品が審査の対象になり、17人が受賞、国内アニメーション部門の最高賞は米名門芸術大の金スジンさんです。


韓国と日本の間で立場の違う日本軍「慰安婦」を扱った作品がアメリカ主流映画祭で受賞したことは非常に異例なことです。


金作家は受賞式で作品のテーマについて「第二次世界大戦中に日本軍の性奴隷として苦痛を受け、忘れられた女性たちの悲劇的で歴史的な闘争に対する社会的疎外と抑圧に対する調査作業」だったと述べました。


作品『忘れられない』は、故人となった金学順、李ファソン、金福童、金順徳の4名の「慰安婦」被害者ハルモニたちの話を8分にわたって被害者の実態、音声が象徴的形象とともに静かでありながら躍動的に流れます(字幕は英語のみ)





タイトル Unforgotten by Kim Sujin 




金スジン監督のインタビューの内容をご紹介します。


映画は4人の被害ハルモニの証言と、それを象徴する映像でできていますが、抽象的イメージと写実的イメージが交わって作家のメッセージを推察させるものです。

金スジン作家は被害者の姿とその苦痛、加害者とその暴力性なども抽象的、比喩的に表現しました。


「慰安婦」被害者は布や石像、蝶々などで表し、日本軍は粗い表面と蛇の形状で、また、苦痛は赤い色彩とつぶれた石などで表現します。金作家は具体的な説明よりイメージとして見られるようにしたかったとその理由を説明します。


作家は、何よりも解放後に自由の身となってから家族のもとに戻ることができず、生涯沈黙するほかない中で、恥の痛みを克服して声をあげた被害者の勇気に光を当てました。



「この方たちがどのように苦痛にあい、捨てられたのか・・・ということは、私が望まなくても伝えられるものです。

本当に伝えたいことは、この方たちが結局は声を出したし、再びこうしたことが、次の世代に、どんな戦争においても女性たちが被害を受けることがないようにしなければという気持ちで陳述をしたと考えるのです。

本当にどれほどの勇気だったかはかりしれません。その勇気に焦点をあわせたかったです」



30年前録音された金学順ハルモニの証言は誰かが強要したものではなく、自ら決心したものだったし、もう死んでもかまわないから、私が言いたいことを全部話したいという思いが込められていました。


金学順ハルモニは、1990年日本政府の「慰安婦に関与していない」という発表に怒りを抑えられず、翌1991年最初の証言者として名のり出た人で17才の時中国北京で日本軍将校から性暴力にあい、直後慰安所に引きずられて行きました。


芸術は人間がトラウマや心の傷から回復する時、小さくない役割を果たすことができるという金作家は、2017年にアメリカに留学、今年カールアーツ大学芸術学修士過程を終えて現在アリゾナ州立大学美術大で3Dアニメーション助教授として在職中です。



元々「慰安婦」問題に関心が深かった金作家は2015年日韓政府間の「慰安婦」合意に対する被害者の怒りと韓日間の「慰安婦」問題の深刻さに気づき、2019年作品を企画しました。


韓国女性家族部に連絡を取ってソウルの「戦争と女性人権博物館」や被害ハルモニが居住地する「ナムヌの家」を訪問したりもしました。


「ハルモニたちに直接会うことは許可されなかったのです。その時は門が閉められていました。ナムヌの家に歴史博物館があります。色々な物や歴史的な内容が展示されてハルモニたちの絵画などを見て作品のコンセプトを決めることになりました。

そんなにも暴力的でとても如実であり、どうにかして自分たちの傷を、記憶を、感情を表現しようとした絵はとても象徴的なものといえるでしょう。それを見て、これは誰かにとってはとても現実的な絵であり、象徴化されることもあるけれど、あの方たちの話を聞くことができて、感じることができます。」



キム作家によれば「3Dアニメーション」は物体をコンピュータに形象化して染料を塗るように作業してアニメーションのソフトウェアを利用して仮想の骨組みを経て登場人物が動いて火、水など自然現象も作り出すシュミレーション技法を通じて制作します。


5千ドルの賞金とオスカートロフィーを受けることになったキム作家は「フィルムを製作する人にアカデミー受賞経歴は到底言葉に表わせないほど大きな意味を持つ」とし、自身の作品が外の世界と成功的に意味のあるコミュニケーションができたという証拠だと話しました。


日本軍「慰安婦」被害者の苦痛と勇気を世に知らせるための「忘れられない」は現在サンダンス映画祭とバンクーバー国際映画祭、サンフランシスコ国際映画祭など多数の映画祭に出品されています。

金作家はアカデミー賞受賞後多くの連絡を受けているとしながら芸術ジャンルで「慰安婦」問題が国際社会にさらに広く知られることを願っています。



「ハルモニたちの肉声による資料を聴いて、また、回顧録を読みながら本当に何度も怒り、苦しみました。ですが、ある瞬間こういう思いが湧きました。この方々は被害者であるだけではなく、闘士であると。人生をかけてこのようなことが後の世で再び起きてはならないと切実に願い、世の中に告発されたことが本質であることを悟りました。私の作品を通じて生涯を被害者というフレームに閉じ込められていたハルモニたちと、世の中に対して必ず言いたかったことです。声を出して下さったことだけでもハルモニたちは被害者ではなく、お一人ひとりが偉大な人権運動家だということを」



(抄訳 方清子)