チョン・チユン 編集委員 ミンドウルレ(2023.09.20

 

政府・与党のガイドライン提示と司法部の士気の引き締め

政権の顔色を窺って 1審判決を覆したマ・ヨンジュ裁判長

検察側の証人たちはむしろ尹美香の無実を裏付ける

2審の異例の迅速な裁判と判決期日の指定

結論を決めておいて「追加の証拠」も無視して量刑を増やす

司法改革がいかに重要な課題であるかを再確認

 



韓東勲法相は、昨年2月に尹美香議員に対する事実上の無罪である1審判決が下された後、「新しい検察が正しく解明しなければならない」とし、「正しく解明せずに正義が実現されたと言えるだろうか」と2審判決のガイドラインを提示した。

 



国民の力は先日、チョン・ジンソク議員に実刑を宣告した裁判官について、高校3年生の頃の文章まで見つけて身元を詮索し、司法の権威を奪おうとした。

最近、尹錫悦大統領は尹美香議員の関東大震災追悼行事出席を狙って「自由民主主義の国体を揺るがし、破壊しようとする反国家的行為」と非難した。

 



そして今日、ソウル高等裁判所刑事1-3(裁判長マ・ヨンジュ、部長判事ハン・チャンフン、キム・ウジン)は、このようなガイドラインと政権の雰囲気に忠実に応えながら、尹美香議員の1審判決を大きく覆す判決を下した。この判決にさらに失望し、怒りを禁じ得ないのは、時計が逆回転する尹錫悦時代にも「それでもまさか」と期待する多くの余地が存在していたからだ。

 


9
20日、ソウル瑞草洞の高等裁判所で開かれた2審判決公判後 尹美香議員

 



まず、尹美香議員に対するマスコミの魔女狩りと検察の標的捜査にもかかわらず、あまりにも強引な起訴だったため、1審の結果が悪くなかったという点が最も重要だった。警察の捜査と検察の起訴段階ですでに12の容疑が無罪と不起訴となり、1審裁判所は検察が提起した8つの容疑のうち7つを無罪とした。唯一有罪となった「横領」容疑でも、裁判所は検察が提起した1億ウォン余りのうち、尹議員側が証拠資料を見つけられなかった1700万ウォンだけを有罪と判断した。




そして、過去7ヶ月間の2審裁判の過程で、検察はこれを覆す特別な証拠を提示できなかった。現在、検察特捜部の人材がほとんど「李在明(イ・ジェミョン)殺し」に集中投入されているためか、特に新しい検察官が投入されたわけでもなかった。実際、既存の検察官がすでに「尹錫悦師団」であったため、新たに補強する理由もあまりなかった。

 



代わりに検察は複数の証人を呼んで尹美香議員を追い詰めようとしたが、それも失敗した。検察側の証人として出てきた人々が、むしろ尹美香議員に有利な陳述をしたからだ。例えば、検察は「尹議員が認知症にかかった吉元玉ハルモニを騙した」と介護保護士を証人として呼んだが、実際に証人は「吉元玉ハルモニは認知機能に問題がなかった」と証言した。

 


困惑した検察は「なぜ証言が違うのか」と証人を罵倒したが、涙を流す証人の姿は、検察の捜査の問題点を推測させるだけだった。このように出席した証人たちは検察の意向通りに証言せず、また4人の証人は検察の要請にも出席を拒否し、協力しなかった。このように検察側の証人たちは、むしろ尹美香議員の無実を裏付ける根拠となった。

 



さらに、尹美香議員と弁護団は、1審で有罪となった部分を覆すための証拠を最大限に提出した。

1審で有罪と判断した「慰安婦」被害者であるハルモニたちのおやつ代と食費、事務局のおやつ代と活動費など、挺対協の活動に関連する部分を、挺対協と連帯団体の活動資料、口座取引内訳、テキストメッセージの通知内容などをいちいち確認し、挺対協の活動があった日時と場所を照合して追加で証拠を提出した」(尹美香議員室プレスリリース)

 



したがって、完全な無罪は難しくとも、1審判決より後退することはないだろうという期待があった。しかし、やはり司法部は韓国社会で最も改革が難しく、既得権カルテルが頼ることができる最後の基盤であることがあらためて証明された。不吉な兆候は2審裁判の初期から現れ始めた。

まず、財閥メディアは「裁判を2年以上引き延ばし、尹美香の議員職を守ってやった」と司法部を圧迫し始めた。

 


とんでもなかったのは、新しい証人を呼び続け、強引に裁判を引きずってきたのは検察であり、尹美香議員は呼ばれるままに出席してきたからだ。しかし、まるで財閥マスコミの要求に応えるかのように、2審裁判所は「迅速な裁判」を強調し、920日に判決を下すと日程に釘を刺した。民事でもない刑事裁判の控訴審をこのように短期間で行い、判決期日まであらかじめ決めておくのは決して一般的なケースではなかった。

 


そのように裁判を導いていた裁判長(ソ・ギョンファン)は、途中で尹錫悦政府の大法院裁判官候補に選ばれ、新しく来た裁判長(マ・ヨンジュ)の態度も同様だった。 そのため、「大手法律事務所や最高裁判事の未来を夢見る部長判事で構成された高等裁判所が、厳格に証拠を調べながら裁判を進めるのではなく、結論を決めておいて尹錫悦時代の雰囲気に従おうとしているのではないか」という懸念を持つしかなかった。

 



今日、その不吉な予感は現実となった。

控訴審裁判所は、検察が起訴した8つの容疑のうち1つだけを有罪と判断した1審を覆し、2つを追加で有罪とした。また、横領金額も1審で判断した1700万ウォンではなく、8000万ウォンと大幅に増やして懲役16ヶ月に執行猶予3年を宣告した。1審で無罪判決を受けた正義連の活動家にも2000万ウォンの罰金刑を言い渡した。

 



有罪に変わった2つの容疑を見ると、まず、女性家族省が支給した国庫補助金を挺対協活動家の人件費として支給し、活動家がそれを再び挺対協に寄付したことが詐欺および補助金管理法違反という話だ。



低賃金を受け入れ、団体に寄付までした活動家たちの献身を、処罰を受けねばならない犯罪に見せかけようとしている。

 


しかも、ほぼ同じ性格と構造である文化体育省やソウル市が支給した補助金には問題がないと判断し、女性家族省の補助金だけを問題視するのは、尹錫悦政府が公約した女性家族省廃止のための根拠を作ろうとしているのではないかという疑いさえ持つ。

 


二つ目に、もっと不合理なのは、金福童ハルモニの葬儀費の募金が寄付金品法違反という判決だ。裁判所は、口座を公開し、募金して残った費用を市民団体に寄付したことが「故人を追悼し、遺族を慰めることと関係がない」とし、「成熟した弔問文化の造成を妨害した」と判決した。市民団体への寄付が金福童ハルモニの意思と無関係だというのもあきれるが、今後は口座を公開するべきではなく、弔慰金を集めてどこに使うかも裁判所の判断に従えという論理を誰が納得するだろうか。

 



金福童ハルモニの葬儀当時、弔慰金と葬儀委員を集めたウェブサイト。こうした市民社会葬がすべて違法で犯罪だということか?

 



続いて最も重要なことは、2審裁判所が横領額を1700余万ウォンから8000余万ウォンに4倍以上も増やしながら、具体的な根拠を提示していないという点である(この部分は判決文が出ればもっと明らかになるだろう)

2020年に始まった魔女狩りで、検察は「挺対協が法人カードを一つしか持たなかった過去に活動家が自分のお金で先に決済した後、補填されたお金」を全て「横領」に追い込んだ。

 



市民団体の会計基準が十分に整備されていなかった時代の問題を突き詰めて、「金美香」、「金食い虫」などのフレームと魔女狩りの武器をつくり出した。しかし、1審で尹美香議員は10年前の記録と記憶を調べあげ、ほとんどが数千ウォンから数万ウォンであるそのようなお金のほとんどが実際に挺対協活動で使われたという様々な証拠をもって証明することに成功した。

 



それほどわずかな金額を10年間200回に分けて引き出しながら横領するというのも常識的ではなく、何より同じ期間に尹美香議員が1億ウォンを超えるお金を挺対協に寄付したことが明らかになり、1審裁判所も真実を見過ごすことができなかった。

 


ところが、控訴審裁判所は、1審で足りない部分に対する尹美香議員の追加的な証拠を一部聞くふりをして、逆にすでに1審で証明されたことのほとんどを否定してしまった。 「1%でも疑いがあれば無条件に有罪と推定する」という検察の論理を受け入れたと思われる。裁判所が追加的な証拠を真摯に検討してくれると期待していた尹美香議員の後頭部を殴りつけたわけだ。もちろん、検察の強引な起訴から始まった残りの5つの容疑の無罪まで覆すことはできなかった。

 


結局、過去数年間を振り返ると、尹美香議員の1審判決がむしろ例外だったことが分かる。ここ数年、私たちが目撃したのは、財閥マスコミの魔女狩り、政治検察の標的捜査と強引な起訴だけではなかった。 納得できない、常識に反する司法部の判決も相次いだ。 そうして「政治の司法化」と「司法の政治化」、そして尹錫悦時代がつくられた。

 



だから、「例外」が再び覆された尹美香議員の2審判決は、司法改革がいかに重要な課題であったかを再確認させてくれると同時に、尹錫悦時代の司法部がどのような暗黒の未来をつくり出すかをあらかじめ示している。尹錫悦大統領の任期中に最高裁長官、最高裁判事、憲法裁判官のほとんどが交代し、司法部はさらに保守化されるからだ。

 


そうすれば、既得権カルテルの反対側にいる人たちは、さらに抜け出せない緻密な網の中に閉じ込められて息も苦しくなっていくだろう。数日前のチェ・ガンウ議員に対する最高裁判決も示しているように、法律条項は最も厳格に解釈、適用され、このような人々のすべての行動を残らず犯罪と規定しようとするだろう。

 


一方、公職者倫理法と農地法違反に土地投機と脱税などの疑惑が明らかになったイ・ギュニョン最高裁長官候補が示すように、既得権カルテルのメンバーにとって、法律はいつでも取り除くことができる蜘蛛の巣になるだろう。今、「迅速な裁判進行」を強調する尹錫悦の時代に、尹美香議員に対する最高裁判決も総選挙前に可能かもしれない。



「社会運動の声を代弁し、韓米日同盟を妨害してきた尹美香の議員職を早く剥奪し、その後の政治活動も遮断せよ」というのが既得権カルテルの要求だからだ。それよりもっとひどい魔女狩りも続くかもしれない。しかし、どんな魔女狩りも、尹美香議員が1審判決のせいではなく、最初から無罪であり、歴史の前で無罪であるという真実を変えることはできない。

 



議会活動にとどまらず、社会運動をともにしてきた尹美香議員

 



(訳 方清子)




出所:世のなかを変える市民言論 ミンドウルレ(https://www.mindlenews.com)