私は、戦後処理問題の解決について、日本の国内法である「韓国人の財産請求権措置法」(法律第144号)に対する新立法が必要と考えています。



1965年の日韓会談批准条約と同時に制定された日本の国内法「韓国人の財産請求権措置法」(法律第144号)が未払金問題などの解決の障害になっているからです。




日本政府が、朝鮮人労働賃金の未払金について調査し1953年8月にまとめています。その件数と金額は次の通りです。


 ① 日本政府に供託したもの80,280件、10,005,53770
 ② 企業が未供託のもの 51,947件、4,354,87075
 ③ 第三者に譲渡したもの 17,361件、2,963,87819

 合計  149,587件、 17,324,28664




 この労働者の未払金を消滅させているのが日本の国内法で、正式名称が「財産及び請求権に関する問題の解決並びに経済協力に関する日本国と大韓民国との間の協定第二条の実施に伴う大韓民国等の財産権に対する措置に関する法律」(昭和40年法律第144号)という長いものです。




略称として「韓国人の財産請求権措置法」とか「韓国人の財産権消滅措置法」と言っていますが、その内容は三項からなっており次のようなものです。



第一項は、
韓国人の財産、権利、利益の請求権を消滅したものとする規定。

第二項は、
韓国人の財産を日本人が保管している場合は、保管者である日本人のものとする規定。

第三項は、
韓国人が持っている有価証券などの権利を主張できないことを規定。




この法律の立法理由を日本政府は次のように説明しています。


「財産及び請求権に関する問題の解決並びに経済協力に関する協定は、その第二条3において、一方の国及びその国民の財産、権利及び利益であってこの協定の署名の日に他方の締約国の管轄のもとにあるものに対する措置について、今後いかなる主張もなされ得ないことを規定しておりますが、協定の対象となるこれらの実体的権利について具体的にいかなる国内的措置をとるかにつきましては、当該締約国の決定にゆだねられております。したがいまして、わが国については、大韓民国及びその国民の実体的権利をどのように処理するかについて国内法を制定して、同条3に言う措置をとることが必要となったわけで、これがこの法律案を作成した理由であります」と。




このように「韓国人の財産請求権措置法」(法律第144号)なしには韓国人の実体的権利である財産請求権を剥奪することは出来なかったのです。



逆説的に言うならば、このことから二つのことが言えます。

一つは、この国内法を改廃すれば、供託金の支払いなど戦後補償の道筋が可能になること。

二つ目は、この法律の適用は、在日韓国人には及んでいないこと。更に、朝鮮人民民主主義共和国の人々にも適用されていないことです。





この法律の成立過程について、立命館大学の同志社コリア研究センターが宮本正明氏の論文を『同志社コリア研究叢書』第4巻 (2021年3月19日発行)に掲載していますのでお知らせします。


(小林久公)




「『大韓民国等の財産権に対する措置法』(法律第144号)成立過程の一断面」宮本正明論文

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