8 月 12 日午前 9 時 55 分、水原地裁城南支部にて 1 審判決がでました。


 無罪。 


主文を言い渡される前に、まず事件の判決の主旨を判事が読み上げました。それをまとめると以下 のようになります。


 1. 原告の陳述内容には一貫性がない。


 2. ナヌムの家法人による内部告発者たちに対する告訴・告発の乱発が始まったのと同じ時期にこの件も告訴されている。 


3. 被告の韓国やドイツでの活動や、法廷での態度を考えあわせると原告の主張する行為を被告がしたとは考えられない。



 この日私の判決の直前、性暴力事件加害被疑者 3 名に対する有罪判決が立て続けに出されるのをじかに見ることになったのですが、これから自分にも同じような現実が突き付けられるのではないか、という不安。その不安に打ち負かされないためにも“何も考えるな”と自分自身に言い聞かせていました。私の判決が読み上げられる番になり、被告席で立っていた私は軽いめまいを覚えるほど 緊張していました。 



判決言渡し前の判事による判決理由はとても長いものでした。先の 3 名にかけられた時間と比べても、比較にならないほど長く、内容も細部に言及するものでした。意見を聞きながら“私は判事 の言葉をきちんと聞き取れているのだろうか?”と私自身を疑うほど、私たちの主張を認めてくれる 内容であることはわかりましたが、最後まで油断はできませでした。



 長い判決理由説明のあとに、“主文、無罪”の一言を判事が読み上げた瞬間、緊張が一気にほぐれていくのを感じ、涙が零れ落ち始めました。



 今回の無罪判決は、弁護を担当してくださったリュ・グァンオク弁護士さんの存在なしではありえ なませんでした。膨大な提出資料の作成。公判での徹底した追及と合理的な陳述。それを最後まで 実践するために私よりもむしろ弁護士さんのほうが心身気の抜けない時間を過ごされてきたと思い ます。リュ弁護士さんはこの件以外にも私たち 7 名の内部告発者たちに対して乱発された 40 件以 上の不当な告訴・告発事件を担当されているのみならず、私たちが大韓仏教曹渓宗社会福祉法人ナ ヌムの家の理事や運営陣による不正・犯罪行為を告発した件も担当してくださっています。

しかも 一人で担当しているのです。言い換えれば 8 人目の内部後発者といっても過言ではありません。 



無罪判決後、私が何度も弁護士さんに感謝するのを見て「マリオ、感謝するのはもうやめて。今後は お互い感謝しないようにしましょう!」とまで言われたのですが、やはりこの場を借りてあらため てリュ弁護士さんに尽きることない感謝の気持ちを表したいと思います。

 リュ弁護士さん、本当にありがとうございました。弁護士さんなしでは無罪判決を勝ち取ることは できませんでした。弁護士さんの社会正義に根差した活動マインドが無罪判決を導き出してくれま した。 



そして判事が無罪と判断した決定的な要因の一つが、みなさんからの嘆願書でした。韓国・ドイ ツ・日本から提出された連名の嘆願書を通して、判事が私の人間性を最終的に判断したのだと思い ます。 



嘆願書キャンペーンにも中心となって関わってくれた東アジア共同ワークショップの友人たちも判決期日に法廷まで来てくれました。20 年来の友人たちです。私がしんどい状況にあるときもいつも 明るく応援してくれました。またナヌムの家事態の正常化のために現場で尽力された方々のうち嘆願書を個人名で提出してくださった人たちがいたことも、皆さんにお伝えしたいと思います。




 内部後発者として私とともにナヌムの家の現場で闘ってきた 6 名の仲間にも感謝を伝えたいです。 辛さや苦しみを分かち合いながら闘ってきた仲間です。特にホ・ジョンアさんとチョン・スンナム さんは本人もつらく大変な状況であったにも関わらず、私側の証人として法廷にも立ち、今回の無罪を勝ち取るうえで重要な証言をしてくれました。この二人には特に感謝の意を伝えたいです。



 ここでみなさんにお願いがあります。


ナヌムの家のハルモニたちを 20 年以上もお世話してきたウ ォン・ジョンソン看護師さんも内部告発をしたという理由でナヌムの家法人から不当に告訴されています。看護師さんも 7 人の内部告発スタッフの一人です。そのため現在も多大なストレスと不安を抱えながらハルモニたちのお世話をされています。しばらくしたら今度は彼女の法廷闘争が始まるかと思いますが、こうした事件が起きる背景は私の場合と全く同じです。ナヌムの家運営陣は自分たちの側につく職員や認知症のハルモニまでも動員して、看護師さんを貶めようとしています。 組織的陰謀という表現しか私には見つかりません。

今回の私の無罪判決が法廷闘争で看護師さんが無罪を勝ち取るための判例となることを強く願います。そのためにも今後看護師さんの法廷闘争の 動きを皆さんとも共有し、今回のような応援と支持をお願いしたいと思います。



 2020 年 12 月に広州警察から告訴があったとの通知を受けてから無罪判決が出るまでの 1 年 9 か 月という時間は、不安とストレスとの闘いであったともいえます。瞬間的な喜びを感じることはあってもすぐさま自分の置かれた不条理な現実に引き戻される。かといって公判が進行中に大声をあげて“私はしていません”と一般社会に対し無罪を主張することも得策ではない。司法の判断にゆだねられた瞬間から沈黙を強いられるのです。そんな時に心の支えとなってくれたのは仲間や友人や 知人たち、そしてナヌムの家問題を理解し私たちに共感してくれ応援の声をかけてくれた会ったこともない市民の存在でした。



 市民のみなさんの関心と手助け、そして応援があり、今回の告訴が原告が個人的に起こしたものでな く、ナヌムの家の運営陣が内部告発者を貶めるために仕掛けた事件であったことが明らかとなりま した。



 8 月 16 日に判決文を正式に受け取れますので、その後皆さんとも共有したいと思います。 



改めて感謝の意を心を込めて 

マリオこと矢嶋 宰