2020年7月25日付『ふぇみん』掲載記事より


             無責任な報道に流されず

             私たちがどう応答するか




「正義連の会計不正疑惑」という文言が一人歩きしている。


韓国の保守メディアが量産する「疑惑」報道の根拠が、5月7日の李容洙さんの記者会見にあると思い込んでいる人も多いようだ。日本でも、李容洙さんによる「衝撃的な暴露記者会見」などと括り、「元慰安婦は利用された。私たちを裏切って、国民を裏切って、全世界の人々を裏切って騙したと告発した」と、韓国報道にもないような文言までつくりだして垂れ流すテレビや雑誌が出始めている。


何を語ったのか


事実はどうなのか。それを見極めるために、まずは2回の会見で実際に李容洙さんが何を語ったのかを確認しておく必要があるだろう。



最初の会見では、尹前代表が国会議員になったことに対する不安と喪失感の大きさを覗わせる内容が多く、世界を飛び回って活動してきた自分自身への評価が低いと嘆く内容も目を引く。一方で、水曜デモで謝罪と賠償を叫ぶのではなく、日韓の若者に正しく「慰安婦」問題を伝える教育活動を重視するべきだという運動論にも大きな分量が割かれている。その他、挺身隊と慰安婦、性奴隷という用語の問題など2回の会見で一貫して主張している内容には変化がない。



しかし、2度目の会見では尹前代表を「裏切り者」等と非難する文言が加わり表現が格段と激しさを増している。「罪」「不正」「売り飛ばされた」「私利私欲」等、一度目にはなかった文言が何度も飛び出す。最初の会見以降、メディアが連日流した「疑惑」報道に驚き強く影響されていることがよく分かる会見だった。



つまり、李容洙さんが最初の会見で言ってもいない尹前代表と正義連の「不正」について、一部メディアが「疑惑」として騒ぎ立てた結果が2度目の会見に大きく影響しているのである。



ところが、それら「疑惑」の中身を見ると、実にお粗末な内容だ。例えば、初期に大きく報道されて「不正」を印象づけたものの一つに、安城ヒーリングセンターを時価より数倍も高く寄付金で購入し最近になって安値で売却した、購入の過程に尹前代表の知人が介入しており、何らかの形で尹氏らに不正な金が流れたのではないかという「疑惑」があった。しかし、これを報じた5月18日付『朝鮮日報』記事に対し最近、韓国新聞倫理委員会は「(当時の時価を裏付ける)根拠に乏しい」「客観的事実というよりも主張に近い内容だ」として「注意」制裁を下した。



訂正されない誤報


正義連はこの間2度にわたって各社を相手に訂正報道と損害賠償を求める言論調停を言論仲裁委員会に申請しており、その結果も出始めている。


最初に決定が出された5月21日付『ソウル経済新聞』は、正義連に交付された国庫補助金のうち3000万ウォンほどの使途が不明だと報じたものだが、これはそもそも記者が補助金総額を読み間違えた上で計算が合わないと主張したもので、全くの誤報であったため削除と訂正文の掲載が決定された。



実は、この記事が出た翌日の22日に正義連は証明書類付きで記事の誤りを指摘し削除を求めており、それをHPにも掲載していたのだが、このような明白な誤報に対しても新聞社側は自ら訂正しようとはせず、結局、言論仲裁委の決定を受けて削除されるまで1ヵ月もの間、記事は放置された。また、新聞倫理委や言論仲裁委の誤報判定、記事の削除や訂正文掲載を求める決定については大きく報道されることはなく、この間に傷つけられた名誉と信用を回復することの厳しさを思わざるをえない。



保守勢力からの攻撃


しかし、それこそが彼らの目的なのだ。文在寅政権に傷を付けて保守勢力の復権を期し、日本の保守勢力との癒着関係を取り戻したい人々にとって正義連は邪魔者でしかなく、この機にその信用に傷を付けて運動を潰そうと、根拠のない記事まで作り出しているのだと思う。ちなみに正義連バッシング報道の中心にある『朝鮮日報』は、韓国で発行部数1位を誇る最大手新聞社である。保守系野党の議員が「疑惑」を持ち出し、保守系メディアがこれを拡散し、右翼団体が検察に告発して検察が動く、という流れで保守勢力による正義連攻撃がおこなわれているのだ。



一方、李容洙さんは6月22日付『京郷新聞』に「挺対協が駄目だったと言いたいわけではない。最初に世界に慰安婦問題を知らせることを、よくやった。それを思うとご苦労だったと思うし、ありがたい」とし、尹氏についても政界進出については批判しつつ、「気持ちでは可哀想に思う。一生懸命にやったから」と語った。



そして最近、正義連の李娜榮理事長と会い、水曜デモの形式を変えて各地で続けていくこと、平和の少女像の建立を続けること、用語は日本軍「慰安婦」被害者とすること、若い世代への教育と日韓若者交流のため各地に「慰安婦」歴史教育館を建設・活性化させることなどを提案した。正義連は、李容洙さんの提案を熟考し、各地の団体と議論・連帯して活動していくとしている。



問題がなかなか解決しない中、30年間信頼してきた尹美香氏が正義連を去ったことに、李容洙さんの苛立ちが向けられた。このことを私たち日本の市民はどう受け止めるべきか。無責任な報道に流されることは許されない。

                    梁澄子(日本軍「慰安婦」問題解決全国行動共同代表)