私たちはすでに7月14日、国会において日本政府や文部科学省(以下、文科省)と右派の国会議員が強制連行を否定し、河野談話を空洞化させる狙いで教科書攻撃を行っていることに、史実の隠蔽・歪曲、人権侵害発言だという抗議の声明を発表しました。 
1月から6月16日までの第204通常国会において、自民党の有村治子参院議員を始めとして、自民党や日本維新の会の右派議員が繰り返し「従軍慰安婦」の用語を使うべきではない等の質問を行いました。
それに対し萩生田文科相は、2014年の近現代史の記述において政府の統一見解を明記することを求めた教科書検定基準改悪にもとづき、「検定基準に則した教科書記述となるよう適切に対応する」「今後そういった表現は不適切になる」等と答弁していました。
4月27日、菅政権は日本維新の会の馬場伸幸衆議院議員の質問主意書に答える形で、「『従軍慰安婦』の表現は適切でなく、単に『慰安婦』という用語を用いる」「労働者動員に『強制連行』の表現は不適切」と閣議決定しました。
これを受けて文科省は5月に前例のない個別の語句について訂正のオンライン説明会を、教科書会社を対象に実施し、申請が遅れた場合の是正勧告の可能性まで示唆して圧力をかけました。
これは教育への不当な支配を禁じた教育基本法第16条に反するものです。
2004年には「慰安婦」問題の教科書記述で右派の激しい攻撃を受けた日本書籍の倒産ということもあったので、政府の圧力を受けた教科書会社が一斉に削除や変更の申請を出すのではないかと危惧していましたが、それが現実のこととなりました。
9月8日の文科省の発表によると、「従軍慰安婦」は中学校1社・高校2社で計10点の記述・11カ所で、「従軍」の文字の削除や政府見解の併記がなされたとのことです。
すでに検定を通っている教科書について、政府が教科書検定調査審議会を飛び越えて教科書会社に訂正を働きかけることは異常事態です。
そもそも、先進諸国ではすでになくなっている教科書検定制度によって、国が教科書の検閲・統制を行っていること自体が問題です。
次世代を担う子どもたちが教科書を通して歴史の事実を学ぶ機会が奪われていることに、再び強く抗議します。
 教科書の「慰安婦」問題の記述に対する政治介入は、1997年度中学校歴史教科書7社全社に「従軍慰安婦・慰安婦」の記述がなされた時期に始まっています。
同年に「新しい歴史教科書をつくる会」や自民党議連「日本の前途と歴史教育を考える若手議員の会」が設立され、教科書攻撃を強め、その結果、2006年度からすべての中学歴史教科書本文から「従軍慰安婦・慰安婦」の記述が消えました。
2016年度から使用されている「学び舎」の教科書には「慰安婦」が記述されており、採択校への右派からの激しい攻撃が問題になりましたが、加えて今年度より山川出版社の教科書で「従軍慰安婦」が記述されたことが明らかになると、今回の攻撃が始まったのです。
日本軍「慰安婦」問題について歴代首相は「河野談話を継承する」と明言してきていますが、もはや「慰安婦」問題については「談話」に書かれている「軍の関与」というレベルではなく、まさに日本軍の発案・管理・統制のもとでアジア・太平洋地域の多くの女性たちが性奴隷にされたことが、多数の証言・資料によって覆すことのできない事実となっています。
日本政府が今すべきことは、「河野談話」を骨抜きにして歴史の事実をさらに隠蔽することではなく、日本軍「慰安婦」制度の真相を究明し、事実確認を行うことです。
そして教科書に事実を記述して、次世代のだれもが過去に学び、このような重大な人権侵害の過ちを繰り返さないようにすることです。
このことは、「慰安婦」被害者たちが強く望んでいることであり、被害者への謝罪に通じることです。
私たちは、今も続く世界の紛争地における女性への暴力、現代社会に蔓延する女性蔑視や性暴力、レイシズム等がはびこる現状を、これ以上放置するわけにはいきません。

4・27閣議決定の撤回を求めます。
国が教科書を検閲・統制する教科書検定制度の廃止を求めます。
日本政府は歴史の事実に向き合うよう、強く求めます。


2021年9月15日
日本軍「慰安婦」問題解決全国行動

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