国連女性差別撤廃委員会(以下、CEDAW)の日本審査の報告とその結果、日本に対して出された勧告について、特に日本軍「慰安婦」問題についての勧告についてお話します。



日本は、女性差別撤廃条約を1985年に締結しました。来年は締結40周年になりますが、残念ながら日本の女性の人権状況は女性差別撤廃条約に規定されている権利保障を十分に行っているとは言えない状況です。



今年10月にジュネーブでCEDAWの日本報告審議が8年ぶりに行われました。


日本報告審議というのは、女性差別撤廃条約を実効性のあるものにするために定められている制度です。


締約国の報告に基づいて女性差別撤廃条約がどのように実現されているのか、あるいは履行されていないのか、ということを審議する仕組みです。もともとは4年に一度だったのですが、国連の事案が立て込んでいるということで今回は8年ぶりになりました。


今回、日本からは私たちJNNCに加盟している団体のメンバーが84名、それ以外に多くのNGOがジュネーブに行き傍聴しました。


CEDAWにそれぞれが抱えている問題について事前にレポートを提出し、それを読んでくださった委員の人たちが日本政府の代表団に質問をし、さらにその間にもメンバーがCEDAW の委員にロビーイングをするという活動をしてきました。



「慰安婦」問題については、これまで何度もCEDAWから被害者中心主義で解決を図りなさい、という勧告が日本政府に対してなされています。


今回も日本で、日本軍「慰安婦」問題に取り組んでいる団体から委員会に対してレポートが出されました。そして審査の前に、CEDAWが主催するNGOからのヒヤリングをするという場があり、その場にも日本からレポートを出した団体からのビデオ報告がありました。


審議の結果、「慰安婦」問題についてとても重要な勧告が日本政府に対して出されました。私は「慰安婦」問題について専門的に取り組んでいるものではありませんので、総括所見を読んだかぎりの感想になります。


今回、CEDAWから日本政府に出された勧告には、大きな特徴が2つあったと思います。


その1つは、批准前に起こった案件であっても現在も権利侵害が継続している場合、補償がなされていない場合は、その問題は残り続けているということを、これまでも何度も勧告はされてきましたが、今回の特徴は、国連経済社会理事会が決議をした内容がわざわざ盛り込まれたことです。


この決議は何かというと「戦争犯罪や人道に対する罪には期限はない」、そういう犯罪には時効はないということが国際的に確立した理念であるということを経済社会理事会が決議をしていますが、この決議をわざわざひいて、「慰安婦」問題についても「まだ解決していない、終わっていない」ということを強調しました。


ご存知のように、日本政府は、2015年の暮れの「日韓合意」で「もうこの問題は終わった」と言ってCEDAWのその後の審議においても、そういう見解をずっと繰り返してきましたが、国際社会の国際人権法に鑑みると日本軍「慰安婦」問題というのは、全く解決していないということが今回強調されたと思います。


そのことを日本政府は真摯に受け止めて被害者中心の解決に邁進していかねばならない、ということが改めて勧告されたということは、とても重要なことです。


もう1つの特徴は、教育というテーマの勧告がありますが、教育分野で「慰安婦」問題について書かれているということです。何が書かれているかというと、日本の教科書検定で教科書から「慰安婦」問題の記述を削除している教科書が日本の検定を通っている、(「国史」教科書が検定を通ったりして日本の教科書検定制度はめちゃくちゃになっていると私は思っていますが)、この中でも教科書の記述から「慰安婦」問題を削除することを行っている教科書があります。記述が残っている教科書が少ないといっても良いかと思います。


それに対してCEDAWがはっきりとそれはダメですと指摘しました。


「子どもたちや人びとに教える義務が日本政府にはある、正しくそれぞれが判断できるように教科書にきちんと記述をしなくてはいけない、日本政府は自分たちの義務として教科書に対して「慰安婦」を含む女性たちの生きた歴史的な体験を適切に反映させること」とCEDAWは勧告しました。そのことは大きなことだと思います。



勧告は多岐にわたって出されたので、パラグラフでは60くらいあります。さまざまな日本のジェンダー平等の遅れ具合について、勧告が出されました。これをどうやって日本国内で実現していくのか、というのが政府、並びに私たち市民社会に求められています。


来年は日本が女性差別撤廃条約を締結して40周年ですが、もうひとつ来年は、大きな政府の取組みがあります。男女共同参画基本法に基づいて男女共同参画基本計画があり、基本法を具体的に実現するための計画を定めなくてはいけないということになっています。これまで第5次まで男女共同参画基本計画が定められています。


来年はその第6次男女共同参画基本計画をつくる年、つまり計画をアップデートしなければいけない年です。この第6次男女共同参画基本計画に、CEDAW勧告をどう盛りこんでいくのか、日本政府が自分の課題だということを基本計画の中に明らかにしていかなければいけない年になります。その意味で、今年、CEDAWの勧告が出されましたが、それを実現するために一歩踏み出していく、そのことが大きく問われていると思います。「慰安婦」問題だけでなく、多くの日本のジェンダー平等課題が国連から提起されていますので、皆さんと一緒にその実現にむけて取り組んでいきたいと思います。

「『日本女性差別撤廃条約NGOネットワーク(JNNC)世話人