抗議文

令和書籍「国史」教科書の検定合格を撤回せよ

文部科学大臣 盛山 正仁 様


令和書籍「国史」教科書の検定合格を撤回せよ 


2025年度から使用される中学校教科書の検定で、文部科学省は令和書籍の教科書を合格とした。私たちは驚きとともに、怒りを禁じえない。令和書籍の歴史教科書は市販版によれば、4回も検定に不合格(1、2回は門前払い、3回目には605項目の欠陥場所を指摘される等)を重ねたようで、史実に対する懸念が残る。また書名を「国史教科書」としたことに特徴づけられるように、皇国史観に基づいており、民主主義国家の歴史教科書としてありえない。



私たち日本軍「慰安婦」問題解決全国行動は、日本軍「慰安婦」記述に限定して検討した結果、令和書籍とこれを検定合格とした文部科学省に対し、厳しい批判と抗議を表明する。 

                

1、令和書籍教科書の日本軍「慰安婦」記述は、史実に反している

令和書籍教科書の日本軍「慰安婦」記述は、「蒸し返された韓国の請求権」というコラムで、2ページにわたって記載している。そこには、《 日本軍が朝鮮の女性を強制連行した事実はなく、また彼女らは報酬をもらって働いていました。また、日本軍が彼女らを従軍記者や従軍看護婦のように「従軍」させ、戦場を連れまわした事実はありません 》と記述し、日本軍「慰安婦」が性奴隷ではない論拠としている。



(1)強制連行はあったし、強制連行がないから被害がなかったということにはならない。

 朝鮮半島の日本軍「慰安婦」被害者の多くは「いい仕事がある」などと騙され、意思に反して慰安所に連れて行かれたものであり、その史実をあえて無視している。強制的に拉致するのも騙して連れ去るのも等しく犯罪である。
さらに、中国やフィリピンなど占領地の被害者はほとんどが暴力的に強制連行されたことは判決、資料、証言で明らかである。「朝鮮半島」「強制連行」という狭い定義に被害を限定することは、加害の過小化、歴史の隠蔽である。



また「戦場を連れまわした事実はない」と言うが、これが史実に反していることは、1999年に出された在日韓国人裁判東京地裁の判決を引用するだけで十分だろう。

《 原告は、その後、漢口の別の慰安所に移され、さらに岳州、応山、長安、蒲圻、喊寧等の各慰安所に移され、1945年(略)の第二次世界大戦終了時までそれぞれの慰安所で慰安婦として軍人相手の醜業(ママ)に就くことを余儀なくされた 》とあるように、原告の宋神道さんは「部隊付き」として、文字通り戦場を連れまわされたのである。



日本政府は1993年、政府調査結果報告文書の中で《 慰安婦たちは戦地においては常時軍の管理下において軍と共に行動させられており(略) 》と認定している。



(2)日本軍「慰安婦」被害者は性奴隷である

次に、「報酬をもらって働いていた」という文脈から、朝鮮人女性は自由意思で「慰安婦」になったのだから性奴隷ではないと主張したいのだろう。しかし被害者たちに自由がなかったことは明白である。慰安所規定では部隊長の許可がなければ外出することはできなかった。

前述の宋さんの判決の事実認定には《 兵士は朝から夕方まで、下士官が夕方から午後9時まで、将校がそれ以降と決められていて、連日のように朝から晩まで軍人の相手をさせられ、通過部隊がある時は特に数十人に達した 》とあり、拒否したり逃亡すれば殴る蹴るの暴力を受けた。事実、宋神道さんの体には日本兵による刀傷が残っている。河野談話では、《 慰安所における生活は、強制的な状況の下での痛ましいものであった 》と明確に認定している。



日本軍「慰安婦」問題の本質は慰安所における性行為の強制性にある。日本政府は「性奴隷という表現は適切ではない」と主張するが、被害者はまさに自由を奪われた性奴隷そのものであった。奴隷の定義に報酬の有無は関係ない。



2、吉田清治証言を歴史の教科書で取り上げることは不適切である

 同コラムの本旨は吉田清治証言にある。《このような事実に反することが世界に宣伝され、韓国から謝罪と賠償を請求されるようになったのは、一人の日本人がついた「嘘」が関係しています》とし、吉田清治証言が日本軍「慰安婦」問題の元凶であるような書き方をしている。しかし、日本軍「慰安婦」問題を巡る歴史の解明は、吉田清治証言に一切関係していない。意思に反した連行の強制性を認めた河野談話も吉田清治証言をまったく根拠にしていないことを菅元官房長官、安倍元首相も2014年に認めている。



 日本軍「慰安婦」問題が世界中に知られるようになったのは、1991年に金学順さんが名乗り出られ、それ以降、アジアからたくさんの女性たちが証言することにより、被害の実態が明らかとなったからだ。また、慰安所制度は日本軍のみならず、内務省、外務省、植民地総督府なども関与する国家犯罪であったということを明らかにする文書は1992年以降数多く見つかっており、すでに史実として確定している。

現実の研究によって吉田清治証言はとうに乗り越えられているというのに、令和書籍教科書は吉田清治証言が「噓」であったということによって日本軍「慰安婦」問題すべてが否定されるように主張している。これは歴史を否定する行為であり、歴史の教科書に許されない詭弁である。



3、河野談話で世界に向けて約束した歴史教育を、文部科学省は遵守せよ

1993年の河野談話において日本政府は、《 歴史の真実を回避することなく、むしろこれを歴史の教訓として直視し 》、《 歴史研究、歴史教育を通じて、このような問題を永く記憶にとどめ、同じ過ちを決して繰り返さないという固い決意を改めて表明 》した。にもかかわらず、文科省は、令和書籍のような教科書を合格させるという暴挙によって、日本軍「慰安婦」問題の正しい解決を阻み、間違った歴史認識を蒸し返し続けている。コラムのタイトルには「蒸し返された韓国の請求権」とあるが、蒸し返し続けているのは日本政府である。政府がやるべきことは、「継承」を公言している河野談話が世界に約束した歴史教育を正に履行することである。



文部科学省の義務教育諸学校及び高等学校教科用図書検定基準には《近隣のアジア諸国との間の近現代の歴史的事象の扱いに国際理解と国際協調の見地から必要な配慮がされていること》とある。令和書籍教科書は明らかにこの近隣諸国条項に反しており、検定基準に照らしても認めてはならないものである。



このような教科書を合格させるということは、戦争や植民地支配によって苛酷な苦痛を与えた日本軍「慰安婦」被害者たちを再び傷つけるという、二次加害そのものである。私たちは到底、許すことはできない。



令和書籍教科書を歴史教科書として中学生に手渡すことは、子どもたちにウソを教えるということだ。



以上の点から、私たちは令和書籍教科書の検定合格に強く抗議し、直ちに取り消すことを要求する!



2024年6月

日本軍「慰安婦」問題解決全国行動