リーガルタイムス 記事出庫2021.01.16


中央地裁、「主権免除理論は適用不可」


ソウル中央地裁民事34部(裁判長 キム・チョンゴン部長判事)が1月8日、故ぺ・チュニハルモニなど「慰安婦」被害者12人が日本政府を相手に慰謝料の一部として1億ウォンずつを請求した訴訟(2016カ합505092)で「被告は原告に1人当たり1億ウォンずつを支給せよ」と原告勝訴判決を下した。 日本軍慰安婦被害者らに対する日本政府の損害賠償責任を認めた初の判決であり、日本政府が報復措置を取ると公開的に言及するなど、波紋は韓日間の外交対立に拡散している。


韓日間の外交葛藤拡散


ソウル中央地裁の判決文を入手し、損害賠償責任を認めた根拠などについて詳しく調べた。



 裁判所は、まず「国内裁判所が外国に対する訴訟について裁判権を持たない」という国際慣習法である国家免除または主権免除の理論を適用するかどうかについて、「国家の主権的行為は、他の国の裁判権から免除されることが 原則という国家免除の国際慣習法によっても、上記国際慣習法が国のすべての行為について裁判権が免除されるため、主権を持つ国家であれば、例外なく、他国の裁判権の行使から免除されるべきと見ることはできず、一定の場合には、その例外が認められなければならない。

この事件の行為(朝鮮半島に住んでいた原告などを誘拐または拉致して、韓半島の外に強制的に移動させ、慰安所に監禁したまま常時暴力、拷問、性的暴行に晒した一連の行為)は、当時の日本帝国によって計画的、組織的に広範囲に強行された反人道的犯罪行為として国際強行規範に違反したものであり、当時の日本帝国によって不法占領していたわが国民である原告等について強行されたもので、たとえこの事件行為が国家の主権的行為であったとしても国の免除を適用することができず、例外的に大韓民国の裁判所に被告の裁判権があると、見るのが妥当である」と述べた。裁判所はこれと関連し、「国家免除が慣行として定着した国際慣習法だとしても、被告が人道に反する重大な不法行為を犯した場合まで被告に対する裁判権を免除するという内容の慣習法を適用することになる場合、ある国家が他国の国民に対して人道に反する重犯罪を犯すことができないようにした様々な国際条約に違反しても、これを制裁できなくなり、これによって人権を蹂躙された被害者らは憲法で保障した裁判を受ける権利を剥奪され、正しく救済されない結果をもたらし、不条理である。憲法を最上の規範とする法秩序全体の理念にも符合せず、正当性がなく、そのような場合にまでも国家免除を適用する国際慣習法としての効力は認められない」と述べた。



裁判部によると、太平洋戦争終戦後にも原告など「慰安婦」被害者の被害は明らかにされないまま、韓日両国間の賠償や補償の対象にならず、1990年代に入って、慰安婦被害者たちが自ら口を開いて被告(日本国)の謝罪と賠償を要求してから、論議の争点になった。被告は1993年の河野談話を通じて公式的に日本軍が慰安婦制度を運営したことを認め、これに対し、政府レベルで謝罪をするに至った。

 しかし、それにもかかわらず、被害者一人ひとり人に対する補償、あるいは賠償はほとんど行われておらず、これに慰安婦被害者たちが日本の裁判所に何度も民事訴訟を提起したが、全て棄却や却下とされ、米国など他の国の裁判所に提起した訴訟結果も同じだった。

 韓国政府と日本政府間の請求権協定と朴槿恵大統領時代、結ばれた「2015年日本軍慰安婦被害者問題に関する合意」もまた、被害を被った個人に対する賠償を包括しなかった。 裁判所は判決理由について、「交渉力や政治的な権力を持たない個人にすぎない原告としては、同事件の訴訟以外に具体的な損害賠償を受ける方法はない」と判断した。



裁判所は「大韓民国はこの事件の当事者及び紛争になった事案と実質的関連性があるとし、したがって大韓民国裁判所はこの事件について国際裁判管轄権を有する」と認め、「この事件行為当時の国際条約、一般的な国際慣習法と日本帝国の国内法、戦後の戦争犯罪に関する国際刑事裁判所の憲章などを総合すると、この事件行為は当時の日本帝国の韓半島と韓国人に対する不法な植民支配及び侵略戦争の遂行に直結する反人道的不法行為に該当すると見るのが相当」と判断した。



したがって、大日本帝国の不法行為によって原告等が精神的苦痛を受けたことは経験則上明白であり、大日本帝国の後身として同一性が認められる被告は特別な事情がない限り、上記のような不法行為によって原告等が受けた精神的苦痛をせめて金銭によって賠償する義務があるというのが、裁判所の結論。



裁判所は損害賠償の範囲と関連し「加害行為の違法性の程度と原告らの当時の年齢、「慰安婦」として苦痛を強いられた期間、当時の環境と自由抑圧の程度など原告らが被った被害の程度、原告らが帰国後に経験した社会的・経済的困難、不法行為以降、相当な期間の被害回復が全くなされていない点、その他の弁論に現れた諸般の事情などを総合して被告人が支払うべき慰謝料は少なくとも原告らに対して各100,000,000ウォン以上とみるのが妥当である」と判示して、原告が損害賠償の一部として求める各1億ウォンずつを支給せよと命じた。



「請求権協定にかかわらず賠償請求権は消滅しない」


裁判所は1965年6月、韓国と日本政府の間に締結された請求権協定によって「慰安婦」に動員された韓国人の補償金及びその他の請求権が消滅したかどうかについても、「原告は被告を相手に未払い賃金や補償金を請求しているのではなく、日本帝国の韓半島に対する不法な植民地支配や侵略戦争の遂行と直結した反人道的な不法行為を前提に慰謝料を請求している」とし、「原告らが主張する被告に対する損害賠償請求権は請求権協定の適用対象に含まれると見ることはできないため、(大法院2018.10.30.判決2013タ61381の全員合議体判決など参照)、請求権協定により原告の被告に対する損害賠償請求権が消滅したとは言えない」と明らかにした。



裁判所は「請求権協定の締結経過とその前後の事情によれば、請求権協定は、日本帝国の不法な植民地支配に対する賠償を請求するための協定ではなく、基本的にサンフランシスコ条約第4条に基づき、韓日両国間の財政的・民事的債権債務関係を政治的合意で解決するためのものだったと判断される」と指摘し、「請求権協定の交渉過程で、被告は日本帝国の植民地支配の不法性を認めないまま、「慰安婦」被害者に対する法的な賠償を原則的に否認し、これによって、韓日両国の政府は日本帝国の韓半島支配の性格について合意に達しなかった。このような状況で「慰安婦」被害者たちの慰謝料請求権が請求権協定の適用対象に含まれていたと見ることは難しい」と明らかにした。




裁判所は「2015年日本軍慰安婦被害者問題に関する合意」による請求権消滅可否についても、「この合意は「慰安婦」被害者らの民事上の損害賠償請求権行使の有無を韓国政府に委託したことのない状態で行われたものとして、別途の委任や法令の規定もなく、個人の権利を国家が処分することはできず、この合意によって原告らの損害賠償請求権が最終的、不可逆的解決に至ったと断定することはできない。この合意は、韓日両国間の「慰安婦」問題に関して国家対国家としての政治的合意があったことを宣言したにすぎないとみる」とし、「原告らが主張する被告に対する損害賠償請求権がこの合意の適用対象に含まれると見ることはできないので、この合意によって原告らの被告に対する損害賠償請求権が消滅したとはいえない」と判示した。 キム・ガンウォン弁護士が原告を代理した。

リーガルタイムス キム・ドクソン記者(dsconf@legaltimes.co.kr)

(訳 Kitamura Megumi)


<原文>

https://www.legaltimes.co.kr/news/articleView.html?idxno=57899