〈報 告〉戦時性暴力問題連絡協議会 第91回水曜行動in新宿 月間報告池田恵理子
高市早苗・自民党総裁は「女性初の自民党総裁」であり、「初の女性首相か・・・」と騒がれていますが、彼女は安倍元首相に追随した歴史修正主義ですから、「慰安婦」問題はなかったことにしたい人でしょう。
安倍氏は1990年代後半から自民党の中で活動を始め、メディアにプレッシャーをかけて「慰安婦」問題を攻撃してきた張本人で、私たちにとってはある種の”天敵“のような存在だったわけです。
そんな人といっしょに歴史修正主義の立場に立って明治からの皇室典範や教育勅語などを持ち上げる高市氏は、夫婦別姓反対はもちろんですが女性の人権とか平等にはほとんど関心がありません。私はそういう人を「スカートをはいたオジサン」などと冗談で言うことがありますが、彼女のような人が政権のトップに立つと思うと暗澹たる気分になります。
今年度の世界フォーラムのジェンダーギャップ指数で日本は世界148カ国中118位、先進国では最下位で、男女平等が極めて遅れている国になっています。ですから「慰安婦」問題もメディアは政権の圧力を怖れて取り上げないのですが、私たちはこうして、ささやかでも声をあげ続け、MLやFBで訴えたりイベントや集会も行っており、こういう訴えをずっとやり続けなければならない・・・という状況です。
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海外の動きと 若者たちの被害証言聞き取りの試み
ベルリン・ミッテ区の「平和の少女像」の撤去問題は、ここ数日、メディアでも大きく取り上げられてきました。10月7日は撤去期限とされていましたが、10月13日にはベルリンの行政裁判所が撤去命令を出したことが10月14日に発表になりました。これを撤去されてはならないという市民やコリア協議会が仮処分申し立てや署名活動をしており、私たちも心配しながら見守っていきます。
もうひとつはオーストラリアのメルボルンで、中国人「慰安婦」被害者の少女像を10月12日に公共の場に設置したい、という声があがっています。このように、戦時性暴力の問題はどこと限らず各国で取り上げられている問題で、私たち・女性の人権、平等の問題の根幹に触れるところですから、様々な動きがあるのです。
辛い話も多々ありますが、それとは逆に、日本では若い世代が「慰安婦」問題の活動を始めたところもあります。そのひとつ、「希望のたね基金」という若者たちのグループ(通称「キボタネ」)では、どの国でも被害女性の大半が亡くなられてしまった今、どうやって彼女たちの証言を聞き、それを伝えていくか・・・という問題に取り組んでいます。
キボタネでは、さまざまな資料や文書、映像などを集めて勉強しながら、実際に聞き取りをしてきた私たちのような中高年の人たちに聞き取りをする・・・ということを一生懸命やっています。
私は「山西省・明らかにする会」のメンバーとして中国山西省の被害女性たちの支援を30年近くやってきましたが、私たちもその対象になりました。彼らは台湾、中国山西省、フィリピン、東ティモールとやってきて、この11月からはインドネシアに取りかかります。インドネシアにはチンダ・レンゲさんが生存されているのでその聞き取りや、聞き取りをしてきた人たちへの聞き取りを行うということです。こういう形で若者たちが、自分たちの問題として「慰安婦」問題を学び、それをさらに広く伝えていこうと活動しているというのは大変心強く、嬉しいことです。
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「性接待」の被害にあった女性たちの訴えと継承
もうひとつ、これは先月の水曜行動の「月間報告」でも触れたのですが、「慰安婦」問題ではありませんが、岐阜県黒川村の満蒙開拓団で、ソ連兵への「性接待」のために18歳以上の若い女性たちがソ連兵に差し出されたことがありました。
日本の敗戦前後の満州が大変な状況の時――関東軍はみんな南へ行ってしまい、村の男たちも徴兵されていなくなった中で、集団自決する村もありました。ここをどう生き延びていくか・・・という時に、ソ連軍に村人たちを守ってもらうために、村の若い女性たち15人ほどを「性接待」ということでソ連兵に提供したのです。そのため開拓団は無事に帰国して黒川村に帰れたのですが、差し出された女性たちでは4人が亡くなりました。そして生き延びた女性たちは「むしろ帰国後の方が辛かった」と言われるくらい、酷い誹謗中傷を受けて差別され、自分の村では暮らせなくなって他の地域に移住する人も出てきました。
この女性たちと黒川村を取材して番組や映画を作ってきたテレビ朝日のディレクターだった松原文枝さんが、9月27日、日本ジャーナリスト会議(JCJ)のイベントで記念講演を行いました。8月末には『刻印』という本も出したんですね。私は映画を観て本も読みましたが、凄惨な状況の中で「性接待」を強いられた女性たちは初めは声もあげられなかったのに、次第に「事実を語っていいんだ」「こんな酷いことを2度と起こさせないためにも、戦争を絶対に起こしてはいけないと訴えるためにも語らなければならない」と思うようになって、被害の実態を証言するようになってきたことが分かってきました。証言が雑誌に載ったり、テレビの番組になったりするようになる中で、この悲劇をどう伝えてどう共有していくのか・・・という試みが始まったのです。
このような過程を経て、被害女性たちが励まされていくんですね。「ああ、やっぱり自分は間違えていなかったんだ」「惨い被害を受けたけれど、これは絶対に無くさなければならない、それを伝えるのは私たちの役目なんだ」ということに目覚めていきます。このようなプロセスが大事だし、被害女性たちを励まし、それを知った私たちも「こういう人たちと一緒に戦時性暴力をなくしていくために、訴え続けなければいけないのだ」と痛感しました。
「慰安婦」問題でも証言の伝え方の難しさはあって、みなさんが生で「慰安婦」被害の体験者の話を聴くのはすでに難しいですが、どの世代にもわかるように、どの世代にも伝えられるように・・・という努力は重ねていかなければなりません。この水曜行動もそのひとつです。ぜひ被害者の証言を聴いていただきたいし、読んだり観たり話を聴きに行くことで、戦時性暴力を自分自身の問題としても捕らえていただけるようになってほしいと思います。
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これから1週間の予定
ところで今度の日曜日・10月19日には劇作家のくるみざわしんさんが、文京区民センターで「演劇で取り組んだ『慰安婦』問題――国家犯罪に立ち向かう」というテーマで講演されます。彼は日本人「慰安婦」だった城田すず子さんのことを『マリアの賛歌』という演劇にしたり、「慰安婦」写真展をやろうとして潰されたカメラ会社の人の体験を『あの少女の隣に』という演劇にして、日本人にとって「慰安婦」問題とは何かを考える・・・という試みをしてきた人です。ぜひ、お話を聴きに行っていただきたいと思います。
それから恥ずかしながらですが、私は10月23日に阿佐ヶ谷市民講座で、これまでに撮ってきた「慰安婦」被害者や元兵士の方々の映像を少し見せながら、「戦後80年・日本軍『慰安婦』問題はまだ終わっていない!!~問われ続ける日本の戦争責任・戦後責任」というテーマで話をします。チラシも少し持っていますので、欲しい方には差し上げます。
まだまだやることはいっぱいあるので大変ですが、ご通行中のみなさんも私たちのチラシを読んでいただいて、この活動にご理解をいただきたいと思っています。どうぞよろしくお願いします。