201927日付 NYタイムズ紙への大菅外務報道官の寄稿文に関して、
外務省への質問事項                
                            2019225 
                            日本軍「慰安婦」問題解決全国行動

   先に、私たちは標記の寄稿文に対して抗議声明を出し、223日に地域政策参事官室にお届けしてあります。この寄稿文について、いくつかの質問をさせていただきます。

1、確認ですが、大菅報道官が投稿された本文は、NYタイムズに載った文章と全く同じと了解していますが、その理解でいいか。
  
2、日本政府が繰り返してきたという「心からのお詫びと反省」が空虚な口先だけのものと、被害者金福童さんや支援団体の私たちが判断せざるを得ない理由は何だと考えられるか。
     
3、「慰安婦問題を含む日韓間の財産及び請求権に関する全ての問題は法的には解決済み」と主張しているが、昨年1114日、河野外務大臣は穀田議員の質問に答えて、日韓請求権協定で「個人の請求権が消滅したと申し上げるわけではございません」と明確に認めた。これは元々の日本政府の見解であり、最高裁の判断でもあるので当然である。にもかかわらず、この寄稿文においても、請求権協定で「法的に完全に解決済み」と主張する「根拠」は何か。
      
4、アジア女性基金についての記述が客観性に欠けている。和解・癒し財団から47人中、34人が受け取ったと詳しい数字を挙げたのに比べ、なぜ、「韓国では3分の2以上の被害者から拒否された」と数字を挙げないのか。全体的な記述でなく都合の悪い事実を隠し、読者を誤導するものと思わざるを得ない。
     
5、「47名中34名が財団からの支援金を受け取り、取り組みを歓迎した。これは否定できない事実
である」と書かれているが、確かに受領した人の「数字」は「否定できない事実」といえる。
しかし、その34名全ての人が「取り組みを歓迎した」ということが「否定できない事実」だ 
と言える根拠は何か。 
また、1000万円という大金を拒否した被害者7名の存在もまた、「否定できない事実」である。その理由や心情をどう理解し、心の傷を癒す日本政府の責任をどう考えるか。

  6、 同時に、韓国以外のアジアの被害者の中に、日本政府のお詫びも反省も賠償もなく無視されて
いる人たちが数多く存在する。その人たちの名誉と尊厳を回復し、心の傷を癒す日本政府の責任
をどう果たすのか。  
                 以上



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  質   問   書


                         2019年3月15日


外務省アジア大洋州局北東アジア第一課

  主査  宝 田 寿 哉  様                  

東京都新宿区西早稲田2-3-18 AVACOビル2F
アクティブミュージアム「女たちの戦争と平和資料館」気付
日本軍「慰安婦」問題解決全国行動
      弁護士    大  森  典  子
       (事務所)
               東京都町田市森野1-8-3 丸昌町田ビル6階
               町田法律事務所( 電話 042-728-7521)

去る3月11日には、貴重なお時間を私たちのために取っていただき有り難うございました。このときご質問しました点について、文書で回答いただけるということでありましたので、改めて質問の趣旨を明確にし、的確なご回答をいただきたいと考え、本質問書をお送りいたします。
なおこの日韓請求権協定二条一項の解釈につきましては、当職はすでに2016年から繰り返し外務省あるいは日本政府の明確なご回答を求めてきましたが、こちらの質問に対応する的確なご回答をいただいておりません。今度こそ明確にお答えいただきたいと思っております。

(ご質問)
1 言うまでもなく、条約を含む法の解釈については司法権の最終判断が公権的な解釈として、行政府の解釈も拘束する、と理解されており、外務省も当然この理解に立っていると考えるが、その理解でよろしいか。

 西松最高裁判決(平成16年(受)第1658号 2007年4月27日第2小法廷)は、判示において次の重要な点を明確に述べていますが、この判示が判決文中に明記されていることはお認めになりますね。              
(以前、同様のご質問をしたときに、「政府が関与していない裁判に関し、政府の立場からコメントすることは差し控えたい」という回答がありました。ここで私がご質問している事は、三権分立という憲法上の原則から見て、西松判決の判示内容は、政府の見解を拘束するか、ということを伺っているのでありますので、日本政府が当事者であるか否かは関係がありません。また 同日に第一小法廷で言い渡された、同内容の中国人「慰安婦」第二次訴訟は日本政府が当事者です。)         
   ① 請求権の「放棄」とは、請求権を実体的に消滅させる事までを意味するものではなく、当該請求権に基づいて裁判上訴求する権能を失わせるにとどまるものと解するのが相当である。
   ② 戦争の遂行中に生じたすべての請求権の放棄が行われても、個別具体的な請求権について、その内容等にかんがみ、債務者側において任意の自発的な対応をすることは妨げられないものというべき。
   ③ (請求権放棄がなされた)請求権に基づく裁判上の請求に対し、同項に基づく「請求権放棄の抗弁が主張されたときは、当該請求は棄却を免れない。

 初鹿明博議員の平成30年11月9日付質問主意書に対する政府の回答には、次の文言があります。
  「韓国との間の個人の請求権の問題については、先に述べた日韓請求権協定の規定がそれぞれの締約国で適用されることにより、一方の締約国の国民の請求権に基づく請求に応ずべき他方の締約国及びその国民の法律上の義務が消滅し、その結果救済が拒否されることから、法的に解決済みとなっている。」

    しかし前項の西松判決の論旨によれば、「他方の締約国及びその国民が裁判上の請求を受け、請求権放棄の抗弁を主張したときは、請求された側の請求に応ずべき義務が消滅し、その結果請求した者の救済が拒否される」と理解するのが正しいと考えるが、いかがですか。
    すなわち、請求された側の国民が任意に支払うことも法律上の「弁済」として認められる、言い換えれば、一方の締約国及びその国民の他方の締約国及び其の国民に対し、裁判上訴求する事は出来なくなるが、裁判外での請求ないし、弁済の受領は可能な状況のままである、という理解が正しいのではありませんか。
    この任意の支払いが法律上の弁済としての効果を有することは、西松判決に関わった調査官が次のように解説していることからも、この判決の最も重要な判示であると理解されています。
     「このような請求権放棄の結果、裁判上訴求する権能を失った請求権は、いわゆる自然債務になるものと解され、債務者の任意の履行に対する給付保持力を失わせるものでない事に重要な意義があると考えられる。この関係で、本判決は、関係者において本件被害の救済に向けた努力をすることが期待される旨を特に付言しており、注目されるところである。」(最高裁判例解説平成19年 423頁)

      以上のとおり、最高裁判所の「請求権放棄」条項の解釈は、請求権が放棄されても裁判上請求権放棄の「抗弁」を提出された時以外、例えば裁判外での請求や、裁判でも任意の支払いに応ずることなどの場合は請求権者は請求の満足をうることができるということであり、これに対して政府の上記質問主意書にたいする回答は、日本語を理解する通常人に対し、請求権放棄の結果、何らの例外なく、一律に個人の請求権に基づく請求は裁判内外を問わず認められない、と説明するもので、西松判決の論旨によれば、この回答は誤りではないですか。


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日本軍「慰安婦」問題解決全国行動 弁護士 大森典子様 

略 

こに 

■TE 
2019年3月15日付文書にていただいた書につき, 別紙のとおり回答いたしま す。宜しくお願い申し上げます。 
平成31年4月17日 外務省アジア大洋州局北東アジア第一課 
宝田寿哉 拝上 
答 
御指摘の最高裁判所の判決については承知しています。 日韓間の財産及び請求権の問題は,個人の請求権の問題を含,日韓請求権経済協力協定により完全かつ最終的に解決済みであるというのが日本政府の一貫し た立場です。 
韓国との間の個人の請求権の問題ついては, 日韓請求権経済協力協定規定 がそれぞれの締約国内で適用されることにより,一方の締約国の民の請求権に基 づく請求に応ずべき他方の締約国及びその国民の法律上の義務が消滅し,その結 果救済が拒されることから, に解決済みとなっています。