【集会報告】8.14日本軍「慰安婦」メモリアルデー「女性国際戦犯法廷から買春者処罰へ 性搾取の連鎖を断ち切るために」(2026年8月23日) 「慰安婦」問題を考える会・神戸
2026年8月23日、あすてっぷKOBEにて、「慰安婦」問題を考える会・神戸主催による8.14日本軍「慰安婦」メモリアルデー企画「女性国際戦犯法廷から買春者処罰へ~性搾取の連鎖を断ち切るために」を開催しました。当日は他の市民運動のイベントも多い中、55人もの参加者があり、この問題に対する関心の高さをうかがわせました。
そして第2部として、金富子さんから『韓国ですすむ脱性売買と性売買サバイバー支援』と題した講演を受けました。金富子さんは東京外国語大学名誉教授で、日本軍「慰安婦」問題ウェブサイト制作委員会(Fight for Justice)の共同代表。そして2000年当時は女性国際戦犯法廷を開催したVAWW-NET Japanの運営委員であり、女性国際戦犯法廷のことを最もよく知るひとりです。
性売買のことに触れる前に、女性国際戦犯法廷のお話から講演は始まりました。
1,性奴隷という言葉に込められた性売買の非人権性
女性国際戦犯法廷は個人の刑事責任を明確化し処罰することによって、世界各地で現在も続く武力紛争下の性暴力の「不処罰の連鎖を断つ」ことを目指し、歴史上で唯一昭和天皇の有罪を宣告しました。
そういった歴史的意義などについて語った後、金富子さんは法廷のハーグ最終判決について、「強制売春」ではなく、なぜ「性奴隷」という言葉を用いているかについて触れました。
《「慰安婦」制度のサバイバーは、「強制売春」という用語は犯罪の極度の重要性を曖昧にし、ある程度自発的な行為であることを示唆し、被害者を不道徳な者または「使い捨て品」呼ばわりするものだと懸念しており、用語を改めることはそのきわめて重要な懸念に対応するものである。……判事団は、歴史的に「強制売春」と呼ばれてきた犯罪は、『性奴隷制』を命名される方がより適切であるとの結論に至った。》(634)
《強制売春という用語は、男性の見方、つまり運営者、売春斡旋人、女性を強かんすることでこの制度を利用している者の見方を一般的に表す。性奴隷制という用語は被害者の見方を表している。この用語は、奴隷化と強かんにおいて、隷属と苦悩の法外さを適切に捉えている。》(636)
強制売春という用語は、セックスワーク論の社会学者がよく用いる言葉です。売春は労働であり悪いものではないが、強制されるからいけないのだと……そういう意味で用いられます。2002年に出された女性国際戦犯法廷の最終判決において、強制売春という用語を用いることをこのように明らかに批判していたとは驚きでした。
そして同意や金銭の介在について、最終判決ではこのように書かれています。
《最初に女性が性的サービスの提供に同意していたとしても、ひとたびサービスの提供が強制されたなら、奴隷化が存在し、彼女たちは「慰安婦」制度に組み入れられたことになる。》(641)
《仕事を拒否できないこと、不当な労働条件、自由の制限は、報酬の支払いがあっても奴隷制を示すものであった》(658)
《対価の支払いがあったか否かは、この判断に無関係である。さらに支払いは奴隷制の実態を覆い隠すために用いられる「もっともらしい法的、経済的用語」にすぎない……》(659)
《ある場合には、慰安所の所有者はいわゆる経費として報酬の全部または大部分を彼女から奪い取っていたため、支払いは見せかけであった。とはいえ、いくらかの金銭を取っておいた女性がいたとしても、彼女たちの状態は性奴隷制であったと結論するのは、性行為を拒否する自由な意思が奪われていたからに他ならない。支払いは、一般的な賃金の支払いであっても、強かんまたは奴隷制の犯罪を否定できない。》(660)
女性国際戦犯法廷の判決が日本軍「慰安婦」を性奴隷と規定していることはもちろん知っていました。しかしそれが売春/強制売春という考え方を全面否定する形で規定しているとは気づいていませんでした。
そして日本軍による性奴隷制が、性売買被害の延長として捉えているということに驚きました。
しかしそれは、私たちにとっては当然のことのはずです。慰安所制度が公娼制度の延長であるということを私たちは知っています。被害者のすべてが「強制」的に連れ去られたわけではなく、性売買集積地にいた女性たちが慰安所に連れて行かれている例もたくさんあると知っています。
それでも慰安所にいた女性たちはみな、被害者です。慰安所にいた女性たちは、日本兵たちの性の相手を拒否することはできなかった。性的自由を奪われている奴隷状態にあった。
強制連行されたからではなく、性的自由を奪われていたから被害者だったのです。
2,他人の身体や性行為の購入は許されるべきではない ~フランスに学ぶ~
性売買に対してどのような態度を取るのか、2つの主張があります。
ひとつは性売買に従事する女性を労働者とみなし、業者と対等な契約を結ぶ個人事業主とみなすこと。いわゆるセックスワーク論です。この政策を採っている国としてドイツやオランダがあり、ドイツは2002人に性売買の合法化に舵を切っています。
もうひとつが性売買を女性への暴力ととらえ、女性を被害者として支援の対象とし、買春男性や業者を処罰する北欧モデル(性平等モデル)です。スウェーデンでは1999年に導入され、2010年の評価書には、路上の性売買は明らかに減少し、買春罪支持は72%(女性85%、男性60%)に及び、性売買産業が確実に縮減しています。この政策を採る国は他にノルウェー、アイスランド、カナダ、フランスなどがあります。
金富子さんはまず、2016年に北欧モデルを導入したフランスの事例を紹介しました。
1990年代初頭、パリで性売買する女性の30%、地方では15%の女性が外国人でした。ところが2010年になると街頭の性売買は外国人が91%となり(東欧40%、南アフリカ38%、アジア12.5%)、フランス人女性の「自由な選択」と思われてきた「売春」像が揺らぎ始めました。また性を買われる人の80%が女性(トランス女性を含めると90%)であり、客はほぼ男性であるという事実から、性売買はジェンダー化された活動であるとみなされるようになったのです。
そしてフランスは北欧モデルに舵を切りました。2019年の世論調査では「他人の身体や性行為の購入は許されるべきではない」という考え方を、市民の8割が支持しています。
2015年に来日したモード・オリヴィエ元国会議員(フランス社会党)は2013年の国会での発言でこのように主張していました。
「女性の身体が商品となって売られ、賃貸され、他者に横取りされるような社会では男女平等社会は不可能」
性買に従事する女性の多くが外国人であるという現実から目を背けず、脱性売買社会に舵を切ったフランスは、性売買が女性に対する暴力であると規定される社会を実現しつつあるのです。
3,性売買がある社会に性平等はない ~韓国に学ぶ~
韓国は植民地時代に日本から公娼制度が持ち込まれ、キーセン観光などで私たちもよく知る通り、日本と同じ「買春天国」でした。遊郭の延長線上にある性売買集積地(日本でいう新地)があるほか、ルームサロンやスタンドバー、キャバレーといった性売買産業がありあす。
ところが2000年と2002年に群山の性売買店舗で火事があり、女性たちが逃げられない奴隷状態であったということが明らかになると、性売買が人権問題であるという市民の声が大きくなり、2004年に性売買防止法が成立しました。
性売買防止法は北欧モデルを参照にしましたが。性売買女性を被害者と行為者に分け、被害者は支援の対象としますが行為者は処罰するという重大な欠陥を抱えています。そのため運動団体は完全な北欧モデルとするよう求めています。
それでも性売買防止法は大きな成果を上げています。「買春天国」の日本と比べてみれば、それはよくわかります。
法律では性売買不法収益を没収できることになっていますが、2013年年から2016年までの4年間で約124億円を没収。特に重要なのは、性売買の場所として提供された18億円の不動産を没収していることです。これらの財産は、脱性売買女性たちへの支援に使われます。
京畿南部警察庁は性売買専門捜査チームを新設、これによって水原駅の性売買集積地は2021年に完全閉鎖となりました。
ソウル市は毎年1000人規模の「性売買市民監視団」を運営し、教育を受けた市民たちがオンラインのモニタリング活動を支え、2022年には14万件が摘発・申告されました。(現在はAIに切り替え中だとか。)
そして2018年には性売買斡旋サイトを摘発し、2019年には会員70万人の計売買斡旋サイトの管理は21人と他人名義通帳の募集責任者、現金引き出し責任者15人を検挙、サイトの完全閉鎖に追い込みました。
しかし最大の成果は、性売買産業の縮小ではありません。
全国13地域の脱性売買女性運動が2004年に「性売買問題解決のための全国連帯」を結成しました。これら運動団体は脱性売買のために法律・医療支援や職業訓練、自立支援センターやシェルター、グループホームなどの運営をおこなっています。
そしてこれに呼応するかのように、2006年に性売買経験当事者ネットワーク「ムンチ」が結成されたのです。性売買の経験当事者たちが「性売買は性暴力だ」と認知し、その根絶をめざすよう声を挙げたことに、私たちは感動しかありません。まるでキーセン観光に反対してきた女性活動家たちが韓国挺身隊問題対策協議会を結成し、金学順さんたちが名乗り出るようになった1990年代の動きを見るようです。
ムンチのスローガンは「私たちの存在が実践だ」「性売買がある社会に性平等はない」です。
私たちはここに、日本軍「慰安婦」問題の解決を求めてきた運動の、ひとつの到達点を見るかのようです。
4,性売買は労働か暴力か ~セックスワーク論批判~
性を買う男性と買われる女性は、対等な関係ではありません。女性労働の現状は低賃金かつ不安定であり、非対称の前提抜きに考えるべきではないと金富子さんは切り出しました。
そして性売買とは買われる女性から見れば単に経済的行為であっても、買う男性から見れば女性から性的自由の放棄をお金で買い取る……つまり女性自身を買い取っていると認識しているために、人権侵害が起こりやすいのだと説明しました。しかも密室、無着衣、対面です。
セックスワーク論の特徴はいくつかあります。金富子さんはそれを逐一批判しました。
セックスワーク論では、売っているのは身体ではなく、性的サービスを提供する労働者であると規定します。しかしそれでは、若い新人女性が高収入で、年齢に伴い料金が下落する理由が説明できません。
フランスの調査報告にあったように、それは「労働」ではなく「身体貸し」が本質です。
セックスワーク論は性的自己決定権がそこにあり、女性に行為主体性があると主張します。これは買う男性と買われる女性とのジェンダー非対称構造を不問にします。経済的動機や居場所のなさ、個人として抱える性暴力体験やジェンダー不平等社会も不問にします。そして性を買われるということが自己決定権ではなく、決定権を金銭で奪われているということを意図的に無視します。
そしてセックスワーク論は、性を特別視することを否定し、性と人格は分離できると主張します。しかし現実には、分離できないからこそ誰もが苦しんでいるのではないでしょうか。
性と人格が分離できるという仮定を突き詰めて考えれば、セクハラや性被害はなかったことになりますし、不同意性交等罪さえ不要になります。性と人格が分離できないからこそ、性を侵害されることで人格が毀損され、被害者は長い時間を苦しむことになるのです。それは性売買であっても本質的には変わりません。
そしてセックスワーク論者からよく言われる「地下に潜る」「性売買女性のリスクが増す」という批判についても、明確に反論しました。
北欧モデルは買春「需要」を抑制することで、性売買市場が圧倒的に縮小します。仮に一部が地下に潜ったとしても、被害者数は圧倒的に減少します。
むしろ合法化したドイツやオランダこそが、地下組織を肥大化させています。合法となった市場に、人身売買被害女性がたくさん送り込まれている現実があります。かつての日本の公娼制度の下で私娼が拡大したように。
買春男性を処罰し買われる女性を非処罰とすると、女性が警察に助けを求めたり支援団体に繋がりやすくなるという利点もあります。
そしてなによりも、性を買うということが人権侵害であるということが社会的な規範になるということが、女性たちの安全にもっともつながるのではないでしょうか。
5,まとめ:金富子さんのお話から学んだ原点
韓国挺身隊問題対策協議会(現在の正義連)は米軍基地村の被害女性や脱性売買の女性運動と連帯し、水曜デモでも基地村女性がアピールしたり、性売買問題解決のための全国連帯が水曜デモを主管したりしています。韓国挺対協がキーセン観光に反対する運動から引き継がれて生まれてきたことを考えれば、日本軍「慰安婦」問題の解決を求める運動が脱性売買社会を求めるのは当然のことのはずです。
日本の運動でも、キーセン観光に反対する松井やよりさんや矯風会の高橋喜久江さんが積極的に運動を進めてきたように、また私自身も日本軍「慰安婦」問題に出会う前にじゃぱゆきさんの問題を勉強しながら大学でのゼミ生活を送っていたことなど、日本軍「慰安婦」問題の解決を求めることの一つの帰結が脱性売買社会を実現することのはずです。
金富子さんのお話を聴いて、脱性売買社会を実現することが日本軍「慰安婦」問題の解決を求めることにつながると、深い確信を得ることができました。
集会の翌日の8月24日、性売買の規制に関する法務省の検討会の取りまとめ報告が議論され、脱性売買のための支援を充実することや、買春男性を処罰することを見送りました。もとより「日本人女性の性が外国人観光客に買い叩かれている」と指摘された高市首相が指示して始めた検討会ですが、いまの日本の「買春天国」の実態が露骨に表されていて、暗澹たる気持ちになります。検討会メンバーは性売買産業の利益を代表する者やセックスワーク論者はいても、Colaboの仁藤夢乃さんのような女性たちに真摯に寄り添う人はいませんし、意見を聞かれてもいません。
これが私たちの運動の到達点なのでしょうか?
日本人「慰安婦」が名乗り出ることさえできなかった私たちの現実が、ここにあります。
絶望することなく、私たちはこれからも買春者処罰と女性たちへの支援の実現、脱性売買社会の実現を目指して闘っていきたいと思います。
★集会報告は次より転載させてただきしました。 https://note.com/redress814/n/n1236edb68874
