要請書 「日本政府は被害者が受け入れられる解決策を」

  11月2日、安倍首相と朴槿恵大統領は日本軍「慰安婦」問題の「早期妥結」で一致したとされます。これまで両政府の溝が深く、事前に期待が持たれていなかっただけに、とにもかくにも「妥結」に向けて両政府が動き出したことに歓迎ムードが高まっています。
  私たち、日本軍「慰安婦」問題の解決を心から願う日本の市民は、両政府が解決への意志を示したことをまずは歓迎しつつ、しかしそれ以上に大きな不安をぬぐい去ることができません。
  それは、①首相や官房長官が首脳会談後も「日韓請求権協定で解決済みとの立場に変わりはない」と述べるなど「法的には解決した」という従前の姿勢をことさらに強調していること、②首脳会談の少人数会合の場で安倍首相自ら「少女像(平和の碑)の撤去」を求め、また「大切なことは合意すればその後、この問題を再び提起しないことだ」と発言するなど「代替条件」をつけていること、③そして、その「条件」に応じれば「女性のためのアジア平和国民基金」(以下、アジア女性基金)のフォローアップ事業を拡充することを検討すると、報道されていることから生じる不安です。

  これらは、被害者にとっては到底受け入れることのできないものです。「解決」は、被害当事者が受け入れた時にのみ成立するのであって、政府レベルの「妥結」によってはもたらされません。
 
  私たちは、2014年6月、「被害者が受け入れられる解決案だけが、真の現実的な解決策だ」という事実に立脚して、8カ国の被害者および支援者が一堂に会して「日本政府への提言~日本軍『慰安婦』問題解決のために」を第12回アジア連帯会議(東京)で採択し、日本政府に提出しました。どうすれば被害者が受け入れることができるのかを、被害者とともに具体的にまとめて提示したのです。ところが、日本政府はこれを全く参考にしていません。現在報道されているような内容では問題は解決できません。

1.「日韓請求権協定で解決済み」として「人道的措置」にこだわる限り、「慰安婦」問題を解決することはできません。かえって被害者の感情を逆なでするだけです。
  そもそも、日韓請求権協定を超えて、被害者個人に賠償することが可能であることは、日本の法廷によって明らかにされています。
  2007年、中国人「慰安婦」訴訟において最高裁判所は、サンフランシスコ平和条約第14条(b)及び日中共同声明第5項における「請求権を放棄する」の意味について、被害者の個人賠償請求権を「実体的に消滅させる」ものではなく、「裁判上訴求する権能」を失わせるにとどまると解するのが相当であると判示しています。この最高裁判所の論理は、日韓請求権協定第2条1項の解釈にもそのまま当てはまります。
  つまり、日本軍「慰安婦」被害者の日本国に対する個人賠償請求権は、「裁判上訴求する権能」を失ったものの、実体的には消滅していないので、日本国が自発的に任意に被害者に対して謝罪の証としての金員を支払うことは法的に可能なのです。

2.「アジア女性基金」のフォローアップ事業を拡充することは解決策になりません。
  アジア女性基金を拒否した被害者たちは、加害国から「人道的措置」と言われ、「同情」して金銭を施すかのように言われたことに怒り、傷ついたのです。同じ過ちを二度と繰り返してはなりません。謝罪の証としての賠償は、「アジア女性基金」から切り離したものでなくてはなりません。

3.「少女像(平和の碑)の撤去」など「代替条件」をつけることは逆効果です。
  加害者が被害者に対して「代替条件」をつけたり「譲歩」や「歩み寄り」を求めることは、問題をこじらせる要因になります。犯罪や暴力の被害者に対して加害者が「条件をのむなら金を出す」と持ちかけたら、被害者が反発をおぼえるのは当たり前です。
  そもそも、日本大使館前の「平和の碑」(少女像の正式名称)は、怒りや侮辱といった感情を排除し、女性たちの歴史、平和、希望、連帯、待ちわびる思いを込めて設置されたものです。その碑文には、「1992年1月8日、日本軍「慰安婦」問題解決のための水曜デモが、ここ日本大使館前ではじまった。2011年12月14日、1000回を迎えるにあたり、その崇高な精神と歴史を引き継ぐため、ここに平和の碑を建立する」と書かれており、日本を侮辱するためのものではありません。

4.「問題が再び提起されない」ために日本政府がすべきことははっきりしています。
  事実と責任を曖昧さのない形で認め、これに基づく公式謝罪と、謝罪の証としての賠償をすることです。そして、政府が認めた事実に反する発言を公人がした場合に、これに断固として反駁をすることです。これまで首相がお詫びを述べた後で政治家など公人がこれを覆すような発言をして、問題が蒸し返されてきました。政府は、今度こそ、このようなことがないようにしなければなりません。

  被害者たちは加害国の誠意ある対応を待ちわびています。
  韓国の日本軍「慰安婦」被害者である金福童さんは次のように言っています。
  「私も、日本政府を赦したい。私たちが死ぬ前に日本政府を赦すためには、私たちが赦せるように、日本政府が、私たちが要求することをしてくれなくてはいけない。私たちが心おだやかに逝けるように力を貸して欲しい」

  最後に、加害国日本の市民として、日本政府が韓国の被害者だけでなく、フィリピン、台湾、インドネシア、中国、東ティモール、オランダ、朝鮮民主主義人民共和国など、すべての被害者に同様に責任を果たすことを求めます。

呼びかけ団体  日本軍「慰安婦」問題解決全国行動