〈ナヌムの家〉有罪判決を受けたナヌムの家 寄付金は曹渓宗に残された
キム・ドンイン記者 (時事IN 2023.4.5)
裁判所はナヌムの家が違法な運営をしているとして有罪判決を下した。しかし、曹渓宗の僧籍を持つ理事陣が法人理事会を掌握しており、内部告発者は全員ナヌムの家を去らなければならなかった。
裁判所は、日本軍「慰安婦」被害者のためのシェルターである曹渓宗ナヌムの家の不法な運営について、経営陣とナヌムの家法人の責任を認めた。1月12日、水原地裁城南支部刑事課は、安信権(アン・シングォン)前ナヌムの家所長に懲役2年6カ月、金正淑(キム・ジョンスク)前ナヌムの家事務局長に懲役1年6カ月と執行猶予3年、社会福祉法人大韓仏教曹渓宗ナヌムの家(法人)に罰金1000万ウォンを課した。業務上横領、詐欺、補助金管理法違反、寄付金品法違反など、検察が起訴した内容のほとんどが裁判所によって受け入れられた。
内部告発者がナヌムの家の不法な運営の事実を暴露してから2年10ヶ月ぶりだ。(ナヌムの家は尹美香議員がいた正義記憶連帯と運営主体及び運営方式がまったく異なる別組織だ。同時期に物議を醸したため混同する人もいる)。
1月12日、水原地裁城南支部は、ナヌムの家の元経営陣と法人に対して有罪判決を下した。
ナヌムの家の違法行為は、2020年3月に職員からの公益通報を通じて世に知られることとなった。当時「時事 IN」はナヌムの家法人理事会記録など約60GBのデータを分析し、曹渓宗傘下法人の利益のために運営されていると報道した(「時事IN」No.663、「ナヌムの家で利益を得たのは彼らだけ」)。検察は、当時の内部告発者によって提起されたさまざまな申し立てと違法な運営の証拠に基づいて関係者と法人を起訴し、今回の判決を通じて当時の疑惑が違法であったと認められたことの意味は大きい。
主な関係者らが罰を受けたので、状況がすべて解決されたかのように感じられる。しかし、現実は違う。
結論から言うと、京畿道が派遣した臨時理事たちはナヌムの家を正常化できず、再びナヌムの家の理事会は曹渓宗の僧籍を持つ人々で埋められた。市民の寄付金は依然として法人に残っている。内部告発した職員らはみんなナヌムの家を去った。
内部告発当時、ナヌムの家に住んでいた「慰安婦」被害者のハルモニは5人だったが、今は3名を残すだけだ。日本軍「慰安婦」被害者を前面に出して法人の財産を集めた過程は違法だという判決を受けたが、依然として法人は100億ウォンを超える財産を持っている。どうしてそんなことが可能なのか? 内部告発者らの暴露以来、最近までにナヌムの家で起こったことをまとめてみた。
5年間で88億ウォン違法募金を確認
2020年5月、〈時事IN〉と他のマスコミの報道以後、ナヌムの家の不法な運営事実が世に明かされた。ナヌムの家には「社会福祉法人大韓仏教曹渓宗ナヌムの家」という法人(以下法人)があり、その下に日本軍「慰安婦」被害者が暮らすナヌムの家(以下施設)がある。
社会福祉法人を監督する京畿道は2020年7月、民官合同調査団を編成してナヌムの家を特別調査し、その結果を2020年8月に発表した。当時、京畿道民官合同調査団が明らかにしたナヌムの家問題は大きく三つにまとめられる。
まず、後援金を違法な過程を通じて集めたが、このお金は「慰安婦」被害者ハルモニには使われなかった。
2015年、朴槿恵(パク・クネ)政府当時、韓日「慰安婦」問題交渉での合意以後、義憤にかられた市民による寄付金があふれた。市民たちはナヌムの家で生活する被害者ハルモニたちに寄付金が回ることを期待した。しかし、寄付金の大部分は曹渓宗の「法人」に入り、曹渓宗僧侶たちで構成された法人理事会では、そのお金で後に(「慰安婦」被害者が全て亡くなった後)ホテル式療養施設を建てようとした。当時、曹渓宗の僧侶たちの計画は法人理事会の会議録にそのまま残っている。
このようにして集めたお金は2015年から2020年までにおよそ88億ウォンに達したが、このうち被害者ハルモニたちが暮らす施設に使われたお金は約2億ウォンほどに過ぎなかった。
後日、裁判所もこのような寄付金募集過程が違法であると判断した。1000万ウォン以上の寄付金品を募集する際には募集・使用計画書を作成し、道知事等登録庁に登録しなければならないが、ナヌムの家ホームページに計5つの寄付金口座を掲示した後、不特定多数に寄付金を勧める形で寄付金を募集したからだ。第
1審裁判所は判決文でナヌムの家が2013年から2019年までにおよそ102億ウォンをこのように不適切な方法で募金したと指摘する。
二つめに、法人と施設ともにでたらめな運営が行われていた。法人理事会がいい加減な運営をしていたのだ。
理事の定員は11人だが、定足数が足りないままの理事会が頻繁にあり、法的に禁止されている書面決議まで行われた。法人と施設の会計処理と運営が分離できず、歴史的価値を持つ「慰安婦」被害者の物品を適切に管理することもできなかった。民官合同調査団は施設と法人の両方を総括運営していた運営陣の不正行為も問題とした。
このような不正はその後刑事処罰につながった。安信権前所長は無資格企業と第2歴史館及び生活館新築工事契約を結び、書類を偽造した事実などが不法と認められ、金正淑前事務局長は2012年6月に死亡した金ファソン・ハルモニの銀行預金を死亡後、代替伝票を偽造して、こっそり引き出したことが詐欺罪に該当するという判決を受けた。
これ以外にも列挙するのが難しいくらい各種の違法事実がすべて京畿道民官合同調査団の調査、検察起訴、一審裁判所の有罪判決につながった。
2022年3月、改革を目指したナヌムの家臨時理事5人が辞退の記者会見を開いた。
第三に、施設に居住するハルモニに対する人権侵害の事実が調査の結果明らかになった。
民官合同調査団は、結果発表当時「ハルモニに対する経済的搾取、介護者による高齢者虐待、精神的虐待、移動制限、身体的自由侵害があった」と指摘した。
曹渓宗側は虐待が存在するという調査団の発表について否定したが、調査団は「介護者の精神的虐待行為に対する証言(4人)と録音(1個)が存在する」と反論した。2020年8月25日、宋基春(ソン・ギチュン)民官合同調査団団長は記者会見で「過去20年間でこのような法令違反と人権侵害を改善できなかったということは、法人ナヌムの家を運営する能力も、意志もなかったことを自認するものだ」と語った。
理事会をめぐる争い
2020年10月には国家人権委員会の調査結果が発表された。当時、国家人権委員会はナヌムの家運営陣が施設に暮らしている「慰安婦」被害者ハルモニたちの人権を侵害したと発表した。
国家人権委員会が指摘した代表的な事例は、Aハルモニの身元公開問題だった。Aハルモニは本人がナヌムの家に居住している事実が外部に知られることを嫌がった。しかし、ナヌムの家の運営陣(安信権・金正淑)は、ホームページなどにAハルモニの写真を載せ、放送局の撮影に動員したり、SNSなどに写真を公開してAハルモニの人権を侵害した。
また、国家人権委は不適切な医療措置と不十分な食事の提供、運営陣の不当な言行などを指摘し、「被害者は最小限の生計、衣食住のうち、住と食だけを制限して提供されてきた。服や生活用品はもちろん、病院の費用まですべて個人や家族に負担させた。弔慰金でも足りない葬儀費用の差額金を家族に負担させた」と入所した被害ハルモニたちが不当な処遇を受けたことを明らかにした。
京畿道民官合同調査団の調査、国家人権委員会の調査結果が出た後、京畿道と広州市は直ちに行政措置に入った。当時の法人理事11人のうち8人を解任(社外理事3人は選任無効処分、既存の理事5人は解任)し、臨時理事8人を派遣した。 続いて京畿南部庁はナヌムの家の捜査結果を発表し、安信権前所長と金正淑前事務局長、そして両罰規定*に基づいてナヌムの家法人を起訴意見で検察に送致した。ただし、不法運営に責任がある法人理事陣は解任されただけで起訴対象から除外された。
解任された既存の理事陣は京畿道の処分に素直に従わなかった。解任された理事5人(曹渓宗僧侶)は2021年初め、解任命令取り消し請求訴訟を起こし、「解任命令処分の原因となった違法行為は行政的な錯誤または管理、監督不注意から始まったもので、慰安婦被害問題に関する全世界的、国家的貢献などを酌量する時… 過剰禁止に違反する」と主張した。解任は行き過ぎた決定だということだ。
この訴訟が進行中に京畿道から派遣された臨時理事は、理事会でナヌムの家改革のための活動を始めた。しかし、臨時理事を介したナヌムの家改革は様々な難関にぶつかった。
新たに派遣された理事が過半数(11人中8人)であるため、理事会を通じて法人定款を修正し、寄付金を本来の目的に回すなど、正常な運営が可能だと期待されていた。しかし、曹渓宗は任命された臨時理事個々人の履歴に反発し、(曹渓宗の立場で)「納得がいかない」として、臨時理事に代わって曹渓宗側のメンバーを理事会に参加させようとした。何度も対立が繰り返される過程で、改革に積極的な臨時理事の数はどんどん減った。結局、ナヌムの家法人理事会は、曹渓宗側理事陣と改革側理事陣との間の「過半数の戦い」が続き、何度も臨時理事の交代が行われた。理事会は1年近くも、まともな改革案を通過させることができなかった。
結局、昨年1月、曹渓宗側の理事陣が過半数を占め、ナヌムの家の改革は不可能になった。 当初、ナヌムの家の正常化のために派遣された改革のための理事らは、「曹渓宗の僧籍を持つ人は役員の5分の1に制限する」、「ナヌムの家設立目的を(無料老人ホーム運営から「慰安婦」被害者保護施設)に変更する」、「寄付金損害請求権」などを推進しようとした。 しかし、理事会の掌握に失敗し、こうした改革課題の遂行は難しくなった。
昨年1月、解任された理事5人が提起した解任無効訴訟で原告敗訴(解任確定)するや、曹渓宗側理事は臨時理事体制に代わって曹渓宗関係者を正式理事に選任しようとした。結局改革側理事陣5人は昨年3月15日、「客観的で中立的な立場でナヌムの家の正常化のために努力したが、これ以上議論を進められない」と臨時理事職から退いた。最後まで踏ん張ったが、曹渓宗側が過半数という戦いで勝てなかったというわけだ。
どうして「臨時理事交代による曹渓宗の影響力強化」が可能だったのだろうか。改革側臨時理事5人は辞任記者会見で広州市の責任を問うた。「臨時理事を選任する権限を持った広州市が臨時理事数人を曹渓宗側の人事に選任し、ナヌムの家の経営権が再び曹渓宗側に戻るように協力した」というのだ。
去らなければならなかった内部告発者たち
曹渓宗はどうしてナヌムの家に執着するのだろうか?
ナヌムの家は県の曹渓宗宗教団体の核心人物らと縁が深い。ナヌムの家事態以後解任された僧侶理事は計5人だ。このうちのナヌムの家の創設期に設立を主導したウォルチュ大僧侶(ソン・ヒョンソプ元代表理事2021年7月死亡)と金山寺住職であるソン・ウ僧(ソ・インリョル前理事)も含まれている。現曹渓宗総務院長であるウォネン僧(李勲定前理事)も一時ナヌムの家理事陣として働いたことがある。ウォルチュ大僧侶はウォネン総務院長の恩師として知られており、ウォルチュ大僧侶本人も曹渓宗総務院長を歴任したことがある。
曹渓宗主流の人々の認識が露骨に表れた場面がある。
2021年7月26日、全羅北道金堤市金山寺で開かれたウォルチュ大僧侶の告別式だ。後に大統領となる尹錫悦(ユン・ソンニョル)当時検察総長がこの場に出席し、残した言葉が政治圏で論議となった。当時、尹大統領はウォルチュ大僧侶の死亡について「ウォルチュ僧侶が(ナヌムの家のために)ひどく傷心され、(この衝撃が)帯状ヘルペスにつながって肺炎に至ったと聞いた。検警が捜査したが、特に疑いもなく、起訴されなかったと聞いている。市民団体とメディアが(ウォルチュ大僧侶に)人格的な攻撃を加えた」と語った。曹渓宗宗教団体関係者たちの認識を尹大統領がそのまま伝えたわけだ。
2021年7月検察総長だった尹錫悦大統領は全羅北道金堤市金山寺で曹渓宗総務委員長に会った。
しかし、「特に嫌疑がなかった」という尹大統領の当時の発言は間違っていた。
裁判所は、ウォルチュ大僧侶を含め、曹渓宗の人々にナヌムの家の違法運営に対する責任があると指摘した。昨年1月、水原地方裁判所が下した解任無効訴訟判決文を見てみよう。原告の曹渓宗僧侶理事は、京畿道が自分たちを解任したことを取り消してほしいと言ったが、裁判所は京畿道の解任処分事由が大部分適法だと判断した。裁判所は「原告が寄付金の募集、使用及び管理などについて単に行政上の錯誤状態に陥っていたのか疑問だ」と指摘した。施設運営陣(安信権・金正淑)の違法行為についても、当時裁判所は「原告がこの事件の施設側の具体的な違法行為を詳しく知らなかったという事情だけで違法行為を管理・監督できなかったことを正当化することはできない」とした。
昨年3月頃、臨時理事は去り、解任無効訴訟を提起した過去の理事たちも去った。しかし、残りの席は曹渓宗側理事が再選任された。ナヌムの家に残されていた、このすべての状況を引き出した内部告発職員らの立ち位置は不安なものになった。 結局昨年6月から7月まで、内部告発職員7人はナヌムの家を離れなければならなかった。
当時ナヌムの家を辞めなければならなかったキム・デウォル氏(学芸室長)は、「(改革側)臨時理事が辞退し、理事会が曹渓宗側に移り、直ちに(内部告発した)職員らが業務から排除された。これ以上残ることが難しかった」と話した。
この過程でナヌムの家に居住していた日本軍「慰安婦」被害者ハルモニ2人が世を去った。
鄭福壽(チョン・ボクス)ハルモニが2021年2月に他界し、「ソリサン ハルモニ」と呼ばれた李玉先(イ・オクソン)ハルモニも昨年12月、旅立たれた。 内部告発職員と改革側臨時理事が去ったナヌムの家には、被害者のハルモニ3人と市民が送った寄付金だけが残った。一部の支援者たちが法人を相手に寄付金返還請求訴訟を起こしたが、昨年12月、1審ですべて敗訴した。
現在、ナヌムの家は新しい理事が任命され、運営されている。ソン・ギョンソク代表理事(法名そんふぁ)をはじめ、多くが曹渓宗の僧籍を持つ人物だ。相変わらずナヌムの家法人登記には、法人の運営目的が「身寄りのない独居高齢者のための無料療養施設設置運営」と書かれている。ナヌムの家が国税庁に提出した公益法人決算内訳によると、2021年基準、ナヌムの家法人の純資産は約122億ウォンに達する。このうち寄付金などによる剰余金は約62億ウォンほどだ。
今年1月、安信権前所長、金正淑前事務局長、法人ナヌムの家に対する第1審判決は控訴審に移った。両側が控訴した。曹渓宗側は不法運営で有罪判決を受けた元運営陣と線を引いているが、裁判過程で安信権・金正淑側は曹渓宗理事陣にも責任があると主張したという。法の審判は続いているが、ナヌムの家の正常化への道を失うことになった。曹渓宗宗教団体は核心的な理事陣の解任を妨げなかったが、ナヌムの家法人への影響力を守ることには成功した。残っている3人の被害者の姜日出(カン・イルチュル)、李玉善(イ・オクソン)、朴玉善(パク・オクソン)ハルモニたちさえも他界された場合、市民が集めた寄付金は曹渓宗宗教団体の決定に従って処分される可能性が高い。
(訳 方清子)
(※訳注:両罰規定)法人に所属する従業員が違法行為を行った場合に、その従業員のみでなく従業員の所属する法人との両方を処罰するという規定。(ウィキペディア)