<教科書問題を考える市民ネットワーク・ひろしま> 「従軍慰安婦」などの教科書の 歴史用語・記述への 政府による不当支配・不当介入に 抗議する
文 部 科 学 大 臣
萩生田 光一 様
「従軍慰安婦」などの教科書の
歴史用語・記述への
政府による不当支配・不当介入に 抗議する
教科書問題を考える市民ネットワーク・ひろしま
共同代表 石原 顕
内海 隆男
菊間 みどり
柴田 もゆる
連絡先 岸 直人
文部科学省は9月8日、日本軍「慰安婦」や戦時労働の「強制連行」の記述について、教科書発行者 5 社から 、現在使用中の中学校「社会科(歴史的分野)」、「高校日本史(A・B)」 と「世界史( A・B)」、高校公民科「現代社会」 「倫理 」及び、 新科目高校「歴史総合」の 各教科書計29 点について、「記述の削除や変更の 訂正申請 」を「 承認した」と 発表した。今回、訂正申請をした発行者の多くは「 従軍」 や「従軍慰安婦 」の用語を削除し、朝鮮人に対する「強制連行」をほとんど削除している。
発行者がこの 時期に 、このよ うな異例の訂正申請を行うように至ったのには以下の経過がある。
3 月 22 日、参議院文教委員会で、自民党の有村治子議員が、「従軍慰安婦と慰安婦の違いについての整理を政府内で行う必要性」 について質問。 それに対して、 萩生田 光一文科相は 、「教科書検定基準」の中の 「政府見解条項 」を活用して整理する旨を答弁した。
4 月 16 日、日本維新の会幹事長の馬場伸幸衆議院議員の質問主意書に対して、政府は「答弁書 」で、「単に『慰安婦 』という用語 を用いることが望ましい」と回 答。萩生田文科相は、この「答弁書」をもって、いわゆる「政府見解条項(注: 2014 年改定の検定基準「閣議決定その他の方法により示された政府の統一的な見解又は最高裁判所の判例が存在する場合には、それらに 基づいた記述がされているこ と」) 」の発動が可能になったとの見解を表明し 、以降の教科書検定では、「従 軍慰安婦」は不適切とすると同時に、「政府見解 条項」 に沿って 「政府 として 認めていることのみ教科書に記述しようということをルール化したもの」と説明した。
5月 18 日には中学校社会科、高校地理歴史科・公民科の教科書を発行する 15 社の編集担当役員を対象にオンラインで「臨 時説明 会」を開催し、 「主なスケジュール」との資料を示し「6月末まで訂正申 請」「 8月頃 、訂正申請承認 」などの日程を伝え、 「申請をしなければ訂正勧告をだすのか」 との質問に、文科省は 「勧告 の可能性はある 」と答えたとされる(6月 18 日付朝日新聞)。 この経過から、今回の訂正申請は、 教科書発行者の自主的申請の形をとっているが、明らかに政府・ 文科省による発行者への訂正申請の強要の結果である。このような 政府・文部科学省に よる教科書用語 ・記述 への介入は、教 科書・ 教育へ の不当で悪質な 政治介入であり、教育基本法第16条の重大な違反である。
従って 、私たちは文科省が教科書発行者に対して実質的に 「訂正申請」を行わせ 「従軍慰安婦 」「強制連行 」等の記 述を書き換えさせたことに厳重に抗 議するとともに 、訂正申請の承認を撤回し、元の記述に戻すことを強く要求する。
あわせてこ のようなきわめ て深刻な事態の根拠とした 2014 年改訂検定基準を直ちに廃止することを要求する。
さらに政府の責任として 1993 年8月4日河野談話に基づき、「・・・われわれはこのような歴史の真実を回 避することなく 、むしろこれを 歴史の 教訓として直視していきたい。われわれは 、歴史研究、歴史教育を通じて、このような 問題を永く記憶にとどめ、同じ過ちを決して繰り返さないという固い決意を改めて表明する。 ・・・」 ことを実現する教科書及び教育を進めていくことを強く求めるものである。
以下、政府・文科省が教科書発行者に対して実質的に「訂正申請」を行わせ「慰安婦」「強制連行」等の記述を書き換えさせたことが不当である理由を示す。
(1) 政府の 「 答 弁 書 」は 、政府 (官 庁 )用 語として 「 慰 安婦 」とすることを決 めたものであるだけで 政府 ( 官 庁 )用語を教科書に記述する必要はないこと、そもそも政府の「答 弁書」は 、政府 (官庁 )用語として「 慰安婦 」とすることを決めたもので あるだけで政 府(官庁 )用語 を教科書に記述することを決めたものではな い。
5月 26 日の衆議院文教委員会での教科書検定基準としての「政府見解条項」にある「基づいて」の解釈 についての質問 に対しては、 「必ずその通り にする ことを義務付けているものではない」と文科省審議官が答弁している。
「政府見解条項 」を新たに「検定基準」に加える案を諮問した検定審議会( 2013 年 11月 22 日、 12 月 20 日 )では、「政府見解と異なる見解を排除しない」意味であると説明している。
(2) 今回の政府の 「 答弁書 」は 、歴史研究の成果や最高裁での判例やこれまでの政府答弁に矛盾しているので、これを検定基準とすることはできないこと 「アジア太平洋戦争韓国人犠牲者補償請求訴訟判決」( 2004 年 11 月 29 日最高裁)で「軍隊慰安婦、「広島三菱強制連行被爆損害賠償判決」( 2007 年 11 月 1 日最高))で「強制連行」、参議院予算委員会( 1997 年 3 月 12 日)で政府答弁として「強制連行は国家的な動員計画のもとで人々の労務動員が行われた」等の説明が行われている。
(3) 子どもの権利委員会勧告 、 日本政府コメント 、 国連報告を踏まえれば 、閣議決定答弁書を 教科書記述に反映させることは 不当であること 2010 年に日本政府に出された子どもの権利委員会(総括所見)勧告「日本の歴史教科書においては歴史的出来事に対する日本側の解釈しか記述されていない」に対して日本政府は「 小中高校で使用される教科書に適用される教科書検定制度において 、政府は歴史または 歴史的事件に関する一 定の見方を決定する立場には ない」 とのコメ ントをしている。
以上から、日本政府は「歴史または 歴史的事件に関する一 定の見方を決定する立場にはない」ことを明言しているので、「 従軍慰安婦」「 強制連行」等 の教科書 記述について、発行者に「 訂正申請」を期待し、 政府の方針に書き換えさせるなどの圧力をかけるべき立場にはないのである。
2013 年第 68 回国連総会では、「文化的権利に関する特別報告者」から「歴史教科書 (の内容 )の選択は歴史家の手に残されるべきであり、特に政治家などの他の者の意思決定は避けるべ きであ る」との指摘がされた通り、 政治家及び政府による歴史的用語の使用に係る意思決定をするべきではないことは、国際的な視点からも明確に指摘されてい る。
閣議決定が教科書記述に影響を与えてはいけないことは明白である。
(4) 政府 ・ 文科 省は教科書検定により 、政府見解と異なる 「 慰安婦 」 「 強制連行 」 等の記述を不当に修正させていること
2021 年度高校教科書検定で、東京書籍「歴史総合」 P161 コラムで「・・・韓国などには経済協力の形態で補償を行った」であったものに「 日本政府はこれらの条約で補償問題は個人への補償をふくみ解決済みとしている」との政府見解を加えて修正させている。
同じく、 実教出版 「 詳述歴史総合」 P185 で「いわゆる『従軍慰安婦』など 、未解決の問題は 多い」 を「い わゆる『 従軍慰安婦』など、政府は解決済みとしているが、 問題は多い」 と修正 させておいて、 今回の 訂正申請では政 府見解に合わせるために閣議決定を根拠にして「従軍慰安婦」を「慰安婦」に修正させている。
また東京書籍 「新選 日本史B 」では 「強制連行された労働者」を 「強制的に動員された労働者」に修正させている。
このよ うに政府見解 条項を使い「慰安婦」 「強制連行」を修正させたことは不当な二重検定であり、 政府の 圧力によって教科書を書き換えさせたことは学問の自由を侵 し、教育の中立性を蹂躙するものである。
以上
【賛同団体】
日本軍「慰安婦」問題解決ひろしまネットワーク
ZENKO(平和と民主主義をめざす全国交歓会)・広島
教科書ネット・呉
念仏者九条の会・びんご
教科書問題を考える市民ネットワーク・東広島
グローバリゼーションを問う広島ネットワーク
高暮ダム強制連行を調査する会
尾道の教科書を考える市民の会
東北アジア情報センター・広島
広島県退職女性教職員の会ひろしま地区支部
広島県高等学校退職教職員協議会呉支部
ピースリンク広島・呉・岩国
呉 YWCA WE LOVE 9 条
特定非営利活動法人共生フォーラムひろしま
真宗遺族会広島地方支部
戦争させない・9条壊すな!総がかり行動呉地域協議会(総がかり呉)
平和産業港湾都市の実現を求める呉市民連絡会(呉平和市民連絡会)
九条の会・呉
日本軍「慰安婦」問題を考える会・福山
生活を守る府中市民会議
第九条の会ヒロシマ
カトリック正義と平和広島協議会
日本ジャーナリスト会議広島支部
子どもたちに未来を拓く広島 2 区市民連合
戦争させない・9条壊すな ヒロシマ県北行動
スクラムユニオン・ひろしま
平和・民主・革新の日本をめざすヒロシマの会(ヒロシマ革新懇)
憲法と平和を守る広島共同センター
歴史教育者協議会音戸支部
芸南子育て・教育九条の会
呉教育懇談会
日本基督教団西中国教区宣教委員会社会部
広島県退職教職員協議会佐伯地区支部